Three timeless Movements
月と海の広大さが発する圧は、言葉のない言語、と澤宮は思う。
月と海は口も目も持たないのに、永い悲しみの史実を語っていた。
海の遥か奥から白っぽい山の色が、じわじわ少しずつ浮き出た。
山には海の苦悩を哀れむような淋しさが有った。
新見の顔付きが、悲しそうに動く。
「何万年も先にあるこの悲海は、
大きな争いが多すぎるために海が沢山の人を呑み込んだ。
この時代には全く人がいない。動物も少ない。毎日、月と山が慰めにくる。
海底の遺された人たちの顔も、悲しそうなまま見つかってる。
誰一人、笑えることなどないのよ」
新見は品の良い下唇を、やや大きい歯で弄ぶ。過去に在った自身の愚かさを存在しなかったように、まるで苦痛の因縁の糸を切って他人事とした自身を、苦痛にまで及ぶ恥としているようだった。
変調が無い動きと無音とを比べて、胸中と頭は大きく揺さぶられてながら光景を直視していた。
列車の中に戻って入り、彼らは心の内で、生きることを前向きに肯定した上で死を考えた。恥を考えた。苦痛を想った。卑屈を哀れんだ。他を陥れる無謀に怒った。
白あんの最中を食べ、緑茶をいただいてぼうっとしていると荒い雑音が鳴って、車掌が咳払いした。「次の停車は、イングリッシュガーデン駅でございます」
to be continued....
作品名:Three timeless Movements 作家名:永野