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Days

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季節は巡る



 目が覚めると朝はすでに八時。授業には間に合うものの、早い起床とは言えない。私はのっそりとベッドを這い出した。
「おはよう」
 ちょっと窮屈になってきた水槽を泳ぐ金魚に挨拶する。金魚は一顧だにせず、いつもの仏頂面でぷかぷかと上に下に浮かんでいる。近所の夏祭りに私一人で行った際、その独り身の居心地の悪さに耐えられず、手近にあった店で捕まえてきたのがコイツ。どことなく無表情なあたりが自分に似ていなくもない。
 今年の夏も一人だったなあ、などと言って花火を見上げていたわけだから、周囲からすればさぞかし寂しい人間に映ったに違いない。
 そうこうするうちに時間は過ぎて、大して朝の家事もせぬまま部屋を出る時刻となってしまった。こういう時ほど、家事万能の誰かがいてくれたらなあと考えてしまう。そちらの方が、未来のネコ型ロボットよりもはるかに頼もしい。
 外は雨が降っていた。やはりと言うべきか、まあ梅雨の時期だから仕方がない。私はいつかサークルの部室から拝借してきた傘を携えて、この時期特有の陰鬱な空気にちょっとした嫌気を感じながら階段を下りた。アパートの前の道に出ると、あちらこちらに大小の水たまりができていた。ごくたまに通る自動車が、この水たまりから歩道側に水を弾き出してくるものだから、用心しなければならない。幸いこの時間帯は滅多に車は通らない。
 アパートから数十歩離れた場所に紫陽花が咲いていた。梅雨になるといつも咲く。私はこの紫陽花が好きで、特にこの淡い紫色が気に入っていた。世界中のどの色よりも、私はこの優しいのにどこか寂しげな色が好きだ。好き、というよりはもはや親近感に近いのかも知れない。理由を説明しろと言われると、ちょっと困るのだが。
少々急いでいたせいもあって、横目に花を気にしながら、今日のところはそそくさとその前を通り過ぎた。花びらから滴り落ちる雨が、まるで涙のようにきれいに映った。

 何歩か行った所で、私は足を止めた。誰かに後ろから呼び止められた気がした。
 後ろを振り向くが、そこには当然誰もいない。こんな雨の中だから、何かの音を聞き間違えたのかも知れない。
ふと時計を見ると、思っていたより時間が経過していた。あと何分もしないうちに二限の授業が始まってしまう。私は慌ててその場を後にした。
雨の中を早歩き。靴の中に水が入り込んで、かなり気持ち悪い。

作品名:Days 作家名:T-03