銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第二部
犬吠駅で銚子電鉄の名物、〝ぬれ煎餅〟を買って二人で食べながら列車を待ち、到着した列車で行ったり来たりの旅を始めた。この頃は笠上黒生駅で列車の待ち合わせもしており、30分間隔での運転だった。なので、少し待てば上りか下りのどちらかの列車にすぐ乗ることができた。
途中で降りた海鹿島駅の前には、今ではすっかり珍しくなった駄菓子屋があった。彼は駄菓子屋での遊び方を知らないらしいので、教えてやった。何が出るかお楽しみのアイドルのブロマイドの買い方など、彼にとっては新しい発見のようだった。
その後、あちらこちらの駅で降りた。最後に仲ノ町駅に併設されている銚子電鉄の車両基地を一緒に見学した。また銚子駅へ戻る頃には、すっかり夕方になっていた。僕が乗る東京行きの特急列車の時間も、迫っていた。惜しいけれど、これで彼とはお別れだ。別れ際、彼はあたかもまた明日も会う友達に言うような感じで、
「じゃあね!」
と言って銚子の街に姿を消した。お互いの名を知ることもなく。
あれから何度か銚子へ足を運んでいるけれど、残念ながら彼と再会することは未だにない。また会えるものならば会いたいのだけれど、その思いは果たされず。
そう言えば、彼は控え選手ながら、少年野球をやっていると言っていた。もしかしたら今頃は、中学の野球部に入って、仲間と野球に打ち込みつつ、しっかりと勉強もしていることだろう。そして、誰か素敵な人に素敵な想いを抱いて日々を過ごしているかも知れない。
そして、こうして銚子に来る度に、いつも思うことがある。
〈また彼に会えるだろうか?〉
作品名:銚子旅行記 銚子からあのひとへ 第二部 作家名:ゴメス