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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十二話

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 そして、了承を得るよりも早く、リュックの中身……いくつものランチボックスを並べてゆく。
 「ちょっとちょっと、誰も良いって言ってないじゃないの、勝手なんだから」

 呆れるような中司さんのため息。
 だが、それに被さるようにして、ぐぅと腹の虫の声がした。

 「あれ? でも誰かが催促してるけど?」

 楽しげな快君の呟き。
 何気に目があったまどかちゃんは、わたしじゃないよって首を振って否定している。
 流石に自分じゃないことくらい分かっているわけだから、背を向けたままの中司さんをちらと伺う。
 微動だにしていない、それが何だか余計に怖くて。
 快君が分かってて言ってるのが分かって。

 「ははは、ご、ごめん、オレだ」

 オレは顔を引き攣らせたまま、そんな見え透いた嘘をつくしかなかった。
 だって中司さん怖いんだもん。


 まぁ、そんなわけで無駄なお怒りを買うこともなく、ランチとあいなったわけだけど。
 快君特製ランチ(サンドイッチと俵おにぎり、玉子焼きやたこさんウィンナーをはじめとする鉄板なおかずの数々)は、元々5人ぶん作ってあったらしく、恐縮して遠慮していたまどかちゃんが加わっても、十分すぎるくらい満足のいくものだった。

 話題は当然、そのおいしいランチを作ったのが快君である、ということに終始する。


 「相変わらずむかつくほどおいしいわね」
 「なんでだろ。ありきたりのラインナップと言えばそうなんだけど、味付けが違うのかな」
 「いいなぁ、おいしいお料理作れるのって」

 三者三様の対応。

 「いやぁ、それほどでも?」

 快君もまんざらでもないらしく、身体が反り返らんばかりの勢いであったが、そんな勢いに乗ってる快君が気に食わなかったらしい。
 ついさっきの腹の虫の件もあったんだろう。
 ふんと中司さんは鼻を鳴らして。

 「あなた本当は女の子なんじゃないの? 双子の妹とあんなにも似てるんだし」

 その言葉通り快君には、双子の妹がいる。
 部長を魔法使いだと信じてやまない純粋が服着て歩いている子が。
 
 彼女は、快君にとてもよく似ていた。
 まるで同性しか生まれないはずの、一卵性双生児のように。
 それは、悪意ほどには強くはないが、明確に快君を責める言葉だった。

 違和感。
 それを口にすればどうなるかくらい、中司さんならよく分かってるはずなのに。


 「ぼ、ボクは男だよっ! それに料理は男の仕事だもん、コックさんは男のほうが多いもん! 食べることが仕事のくせに言われたくないっ!」
 「何ですって?」
 「ふんだ。凄んだって怖くないもんっ。さっきだってボクのランチに反応してお腹鳴らしてたくせに!」

 あっという間に一触即発の気配。
 いきなり始まった喧嘩にどうしていいか分からずおろおろしているまどかちゃん。
 不謹慎にも、そんな姿さえ可愛いと思ってしまって。

 ビシビシィッ!

 「ったぁ~っ!」
 「な、何をするのよ!」

 ほとんど顔を付き合わせる勢いの二人に割って入り、オレはおもむろに、きついデコピンをお互いにお見舞いする。

 侮るなかれ、これが結構痛い。
 二人の怒りの矛先は、そのままオレの方へとシフトチェンジする。
 正直中司さんなんか本気で怒っててガグブルものだったけど。
 折檻くらう前に、オレは素早く口を開いた。

 「輪詠拳の心得第二五曲目、『何かを食べることで僕らは、確かに生きている』……傍で見てるオレたちも気分悪くなるし、何より食べ物に失礼だ。それでも不満なら、食った後に聞こうじゃないか」

 ほんとに食べた後に来たらどうしよう、なんて内心思っていたけど。
 これが以外や以外、うまくいって丸く収まるのだ。
 
 快君のランチはおいしい。
 怒ってたことなんて、どうでもいいことだと思えるくらいに。
 だから食べることって幸せだと思えるんだろうなって、ちょっと思う。


 「……ごめんなさい、言いすぎたわ。せっかくわざわざ作ってもらってるのに」
 「ううん、僕も大人気なかった。ごめんね」
 「……」

 始めは黙々とした食事だったが、そのうち我慢できなくなったみたいに中司さんがそう切り出し、快君もそれに倣う。

 すっかり元鞘な様子に、まどかちゃんは不思議なものをみるような驚いた顔をしていのが印象的で、微笑ましかったけど……。


          (第13話につづく)