小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第十二話

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 



 まるで長年の付き合いのある友人同士のような。
 終始そんなノリで、オレたちは花の迷路、『ラビ・ラビ・フラワー』を脱出した。

 
 話は変わるけれど、オレは用心深いほうだ。
 いや、だったと言うべきなのかな。

 今まではどちらかというと、『わざわざ信じてって言わなきゃ、裏切ることもないのに』って感じだったと思う。

 でも、『たとえ全てが嘘であってもそれでいい』みたいな気分って本当にあるんだって実感した。

 頭のどこかでは、何かがおかしいって理解している。
 だって、ここはもう潰れてしまったはずの遊園地だったはずなのだ。
 
 それなのに何故まどかちゃんのような娘が花壇の世話をしている?
 しかし、そう思う反面、夢の世界をそのまま模したような景観と、まどかちゃん本人がオレの判断を鈍くさせていた。

 彼女は、実はここに閉じ込められているお姫様で、そしてオレは彼女をここから助け出そうとしている。
 そんな妄想めいた考えの方がまどかちゃんの目映いばかりの姿を見ていると正しいような気がしてくるのだ。


 「雄太さん? だいじょうぶ?」
 「え? えっと」

 不意にそんなまどかちゃんと目が合って、心配げにそう聞かれる。
 その背後では、欧風の景色が目まぐるしく回転していた。
 中々のスピードで、色が混ざり合い、流れる線となってぼやけ、相対しているまどかちゃんの煌き目映い姿を、余計に浮き彫りにさせる。

 
 そう、今はコーヒーカップ……『フルムー・カフェ』の上にいた。
 オレより誰より、まずは中司さんが渋ったけど、乗らなければ先に進めないと言うのだから仕方がない。

 中司さん快君ペアと、オレ、まどかちゃんペアになって乗り込んだわけだが。
 それからすぐに中司さんが渋る意味を思い知ってしまった。
 快君と一緒に乗ればよかったのではとちょっと思ったりもしたが、流れ的にそうもいかなくて。

 オレは正直、目前の……すぐ近くにいるまどかちゃんに緊張していた。
 そんな益体もない思考の深みにはまるくらいには。

 
 「乗り物酔い、してないですか? コーヒーカップって嫌いな人多いみたいだから」
 「あ、ああ。そう言うこと。いや、小さい頃はさ、車とかバスとかでもよく酔ったんだけどさ、今は平気かな」

 オレが変な顔でもしてたからなのか、まどかちゃんはオレがコーヒーカップに酔ったのだと勘違いしたらしい。
 
 酔ってるのはコーヒーカップじゃなくて君だよ。
 アキちゃんならこんな時、そんな小粋なジョークでも飛ばして、尚且つそれが似合っちゃうんだろうけど。
 少しの沈黙も、意識が雑多な思考の世界から帰ってきてしまうと耐えられなくて。
 オレはオレなりに言葉を続ける。


 「何かね、酔いって運動神経が関係してるらしいよ。昔はあまり運動が得意じゃなかったから酔いやすかったけど、三半規管が鍛えられたせいか、酔わなくなったんだ」
 「ふぅん。それじゃあ雄太さんは何か運動やってたんですか?」
 「高校の時陸上を少しね。後、オレんち昔、道場やってたから」

 あまりに自然に感嘆されたから、オレは思わず調子に乗って、言わなくてもいいことまで言ってしまった。

 気付いたのは結構最近だけど、どうやらオレは自慢したがる癖があるらしい。
 特にこんな風にテンパって会話のつなぎに困った時なんか、如実にその悪い癖が現れる。
 こういうのが一番うざがられるって分かってるはずなのに、どうしても言葉を止められない。

 「そう言う三輪さんこそ、酔ってる感じじゃないね。何か部活とかやってるの?」

 佇まいからして、高校生くらいだろうって、オレは判断していたかた話題をずらすつもりでそんな事を言う。

 「え? えっと、わたしは……」

 だが、むしろそれこそが地雷だったらしい。
 今までオレの話を面倒くさがることもなく聞いてくれていたまどかちゃんのその表情が、突然の雨雲のように曇る。

 「園芸部に所属してましたけど……」

 何かを言い澱んで、やめる。
 過去形な所に、触れてはならぬ重い何かがある気がした。

 何故過去形なのか、いろんな憶測がオレに頭に浮かび飛び交ったけど。
 さすがにオレでもそれがつついてはいけない藪であることは分かる。
 そっか、なんて白々しくも頷いて、オレは再び話題をずらすことにする。

 「やっぱり花が好きなんだ? いろんな花があったけど、何が一番好き?」

 発してすぐに、あまり話が変わってないことに気付いたが。
 まどかちゃんとしてはそうでもなかったらしい。
 気を取り直すようにして、オレの問いに答えようと、悩む仕草をする。


 「う~んと、たくさんあって……だけど、一番は薔薇かな。わたし、青色が好きなんです」

 好き。
 なんて落ち着かない、だけど綺麗な言葉なんだろう。
 オレが言われたわけじゃないのに、そんな事を思ってしまう。

 「えっと……確か、不可能だったっけ、花言葉」

 オレはなけなしの知識を引っ張り出し、話に乗っかろうとしたわけだけど。
 違いますよ、とばかりに首を振られる。

 「それは昔の話ですよ。だって今はどこにでも咲いてるもの」
 「なるほど、言われてみればそっか。今はええと、何だっけ?」

 ど忘れしていた。
 確か、しゃれた花言葉だった気がするけど。

 「はい、青い薔薇の花言葉は……」

 どこか秘密めいていて、楽しげにその言葉を、ふんわりとした唇から綻ばせようとして。

 「なんかお見合いしてるみたいね」
 「お見合い、おみ合い~」

 ふいにどこからともなく寄ってきたコーヒーカップ。
 それに乗っていた中司さんと快君が、カップの端に身を乗り出しながら、そんな捨て台詞を残し、また離れてゆく。

 「……」
 「え、えっと」

 開いた口が塞がらないとはこの事なのか。
 こっちがびっくりするくらい、真っ白だったまどかちゃんの顔が真っ赤に染まって。
 結局まどかちゃんは、青い薔薇の花言葉を教えてくれることはなかった。

 聞こうとしても、恥ずかしがっててとりつくしまもなかったからだ。
 そんな緊張感がオレにも伝播して、気のきいた会話も続かず。
 いいような悪いような、よく分からない雰囲気のまま、オレたちは無事コーヒーカップエリアを抜け、一息つく。

 
 降り立った場所は、少しばかり広がっていて丸テーブルがいくつかと、ベンチが等間隔で並べられていた。
 その両側は高く聳える、反対側の見えない白壁で。
 壁に導かれるままに真っ直ぐ進むと、次のアトラクションのエリアが見えた。
 
 それは、おそらくジェットコースターだろう。
 乗り場の立て看板には、『リバース・ロマンティ』と、その名が刻まれている。
 人気がないから人気がないのか、数分の感覚で無人のジェットコースターが行き来している。

 コーヒーカップもそうだったけど、何だかシュールな光景だなぁと思いつつ、ジェットコースターを目で追っていると、テーブルの一つに身の丈に合わぬ大きなリュックを置いた快君が唐突に言った。

 「コーヒーカップで酔ってない? よかったらお昼にしようよ」