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新撰組異聞__時代 【中編】

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プロローグ 


 どこかで、大砲の音が聞こえる。戦況は一進一退。
 黒羅紗の洋装に身を包み、後頭部で乱暴に束ねた総髪の髷を肩で揺らし、男は机から顔を上げ窓を振り返る。
 _____そろそろ、出撃か。
 そんな予感が、する。
 彼の中で敵はもう、長州や薩摩などの倒幕派でも、新明治政府でもなかった。いや、初めからその敵は前にいたのだろう。
 時代と云う敵が。
 だからといって、男に引くという二文字はない。寧ろその存在が大きければ大きいほど、闘士が沸く。
 ____未だだ。
 目の前にふっと現れる懐かしい二人に、彼は云う。
 「俺は未だあんたたちとは、逝けねぇよ。近藤さん、総司」
 二人は、昔のままの姿で微笑んでいる。
 ____好きなだけやれ。お前は、お前の道を行け、トシ。
 ____そうですよ。土方さんならきっと道は開ける。
 「お互い、変わらねぇな」
 もうそこに、二人はいない。
 引き出しを引き、中にあるものを見つめながら彼は刀を後頭部へ。
 ブチッと髷が切り離され、髪が肩に流れる。
 「土方副長!」
 「理解ってる」
 引き出しから、『誠』の一字を染めた鉢巻きを額に巻き、彼はもう一度窓を振り返る。
 空から舞い散る雪。
 雪など、何度も見ているが北の大地に降る雪はあっという間に大地を覆う。
 思えば、遠くに来たものだ。
 江戸から京、そして流れ流れ、蝦夷地・五稜郭である。江戸は東京と改名し、幕府は既になく、幕府側にいた人間の何人かは新政府のある程度の地位にある。
 時代は変わったと人は云うが、歳三の時代は終わらない。
 生きている限り、永遠に。
 ___土方さん。
 誰かが、呼んだ。
 「結局、あんたとは酒呑めなかったな。今度ゆっくり呑もうって約束したが。桂さん」
 ここにいる筈のない男の名を口にして、歳三は部屋の戸を閉める。