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紡ぎ詩Ⅱ(stock)~MEGUMI AZUMA~

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 今、学生時代に郷里を想ったのと同じほどに京都を懐かしく思い出す。京都は私にとって紛れもなく「第二の故郷」である。去年は何と四度も京都の地を踏んだ。度重なる同窓会や京都の大学進学を考えている息子と志望校のオープンスクールを見にいくためだった。卒業して気の遠くなるような年月が経っても、一年に一度は必ず京都を訪れる私だ。


☆『あと少し』☆

 白木蓮が春の雨に打たれている
 水温むといわれているように
 今朝はそここに満ちた大気も暖かく
 春の予感をいよいよ感じさせてくれる
 二月を冬という人はいても
 三月を冬とは言わない
 しっとりと潤んだ空気は早くも春特有のものだ
 なのに 午後になって降り出した雨は何故かとても冷たい
 冷たい雨に濡れながら
 蕾を膨らませた白木蓮は何を考えているのだろう
 長く厳しい冬を辛抱強く耐え抜いてこそ
 光満ちた春を迎えられることを何より知っているのは
 花たちなのだろう
 
  耳を澄ませてみれば静まり返った庭に
  花たちのひそやかな囁きが聞こえてくるようだ
 ―あと少し、あと少し。
  あと半月もすれば、ようようふくらみ始めた蕾たちは一斉に開き
  天界にひらく花もかくやと思わんばかりの純白の花が咲く
  その花びらは まさしく天人が妙なる楽を奏でながら地上に振りまくという散華
 
 あと少し あと少し
 私も花たちの真似をして心の中で唱えてみる
 それはまるで心を潤してしてくれる呪文のように
 私の心をひたひたと満たしてくれた
 

 
☆『こだわりを棄てたなら』☆

 早春の雨に濡れながら ひっひりと咲く白椿
 まるで陰鬱な雨の午後 窓際で物想いに耽る少女のようだ
 人は何故 ささいなことに拘るのか
 人によって拘るところは違うから
 この世の中には悩み事が尽きず 苦しみも絶えないのだろう
 けれど 少し見方を変えれば
 その拘りがいかにちっぽけで中身のないものかに気づくこともある
 
 春と呼ぶにはまだ少し早いような弥生の庭で
 一輪の白椿を眺めている中に ふっと思った
   ―私は何をつまらないことに拘っていたのだろう―
 惜しみなく与えられたものを受け取っても感謝せず
 得られないものを渇望して 勝手に自己嫌悪に陥っていた
 それが余計に自分を追い込み苦しめるだけだと気づきもせずに
 
 花を見つめているだけで色々なことを考える
 物言わず ひたすら堪える花はかえって私の心に多くを語りかけてくる
 花たちの囁きに耳を傾けたとき
 自ずと気づかなかったことに気づかされ
 見えなかったものが見えてくる

 通り雨が止んだらしい
 分厚く垂れ込めた鈍色の雲間から
 ひと筋の光が地面に落ちてきた
 一輪だけ ひそやかに咲いた白椿を一条の光明が照らす
 何と尊い光景だろう
 見守る私の眼に熱いものが滲んだ
 
 穏やかな陽光に照らされた純白の椿は
 物静かな思索に耽る老婦人のように見える
 すべてを受け入れてなお凛とした強さを持つ
 長い風雪をかいくぐって生き抜いた女性のようだ


☆ 『うす紅(くれない)の微笑~今年初めての白木蓮に~ 

今朝 ひとつめの白木蓮がひらいた
今年 最初の花だ
待ちかねていたように庭に飛び出しデジカメで撮影していると
ふと気づいた

純白の大振りな花びらのいちばん外側が
うっすらと色づいている
かすかな かすかな紅
よくよく注意しなければ気づかないほど薄紅に色づいたその部分に
何かドキリとする
小説を書くとき
―純白の花びらがを水に落としたような。
女性の美を表現するのに使うことがある
触れなば落ちんというばかりの熟れきった果実のような色香ではなく
おとなしげな風情に少しだけ混じった艶をたとえる
白木蓮のそこはかとなき紅は 
まさに女性のほんのりとした色香そのもののようだ
どこまでも楚々とした清廉な乙女がたまに見せる色香
そんなところだろうか

毎年 この花たちが満開になる度に
天人が極楽で舞いながら地上に播く散華のようだと思って見てきた
白木蓮の私のイメージは〝仏のみ使い〟
様々な花を見て色々なタイプの女性をイメージしても
白木蓮から女性を想像したことはあまりない
今年初めて この花に〝女〟を感じた

私自身の心境の変化なのか
たまたま視点が変わっただけなのか
わずかな戸惑いと大きな発見の歓びの混ざり合った心をいだきつつ
今年初めての花を見つめる
凝視した先には
慎ましやかながも どこか艶やかさを帯びた純白の花がかすかに揺れている
その花の向こうで
妙齢の美女が束の間 妖艶に微笑んだ―)