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サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第八話

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 中に入ると、まず目に入ったのは外壁と同じ白塗りの壁だった。

 見上げる空以外の四方八方を囲んでいて継ぎ目はなく、昇り始めた太陽の光を思う存分反射している材質が、何なのかは良く分からない。

 だが、それはまるで。


 「なんか、迷路みたいだね」

 そう、迷路だ。
 最近はあまり見かけなくなったが、小さい頃には近所にもあって、よく行った覚えがある。

 オレたちが今いる場所は、いかにも迷路の入り口であるかのような長い道で、突きあたりが丁字路になっており、その突きあたりの壁には遊園地に入り口には大抵ありそうな大きな地図のようなものと、木の板で作られた看板が刺さっていた。

 他にめぼしいものも無かったので、オレたちは吸い込まれるかのようにその突きあたりへと歩みを進める。


 まず目に入ったのはその大きな地図。
 見ると、それはこの三輪ランドの全体図のようだった。
 
 早速それを見てみる。
 十数ある名前のついたアトラクションが、それぞれこの三メートル以上はある白塗りの壁に寸断されており、それらを楽しむためにはまず、入り組んだこの白壁の道を抜けなければならないらしい。

 子供ならわくわくせずにはいられないシチュエーションだが、何か、一気に移動できる手段でもないかぎり、大人にとっては、休みになれそうもないつくりだろう。


 「さて、黒陽石はどこにあるのかしらね?」

 中司さんが地図を手でなぞりながらそう訊いてくる。

 「うーん、あるとしたらどこだろうなあ」

 中心より少しだけ上のほうに位置するのが『フィリーズ・ホイール』という名のアトラクション。

 そこにある極彩色のイラストを見る限りそれは観覧車だろう。
 噴水と花壇を見ながら軽食のできる憩いの間、『フォーテイン』。
 観覧車に負けないくらいの派手なイラストの『メリーゴーランド・レイト』
 空飛ぶ海賊船のような乗り物の『ニーズ・ユーズ・ボート』など。

 他にも白壁の道の合間をくり抜くようにいくつものアトラクションが点在している。
 ここがつぶれたなんて冗談に思えるくらいに、なかなかな遊園地だ。
 しかも、閉園になったのにも関わらず、ここにはありがちな寂れた雰囲気はなかった。
 
 建物が残されているのは、これだけのものをそのままにしておくのは、壊すのにもお金がかかるっていうことで納得できるけど。
 これだけの遊園地、さぞ入園料も高かったことだろう。
 タダで勝手に入っておいて何だけど、料金の確認とかもしとけば良かった、なんて考えていて。
 とはいえ、残念なことというか当然だろうけど、この地図を見る限りでは黒陽石なるものの場所は分かるはずもなく。

 「あ、この『プリヴェーニア』ってお土産屋さんじゃない? こっから近いし、ひょっとしたら誰かいるかも」
 
 それでも全くめげることなく、快君がそう言って笑顔を向けてくる。
 快君の言う誰かとは、さっきのバスで先に来ているかもしれない誰かのことだろう。
 確かにここからだと一番近い場所のようだし、行ってみる価値はある。
 と言うよりか、土産屋というものの性質上、必ず通るべき場所にあるはず。

 そう、考えたときだった。


 カッ!

 「きゃっ!」

 突然発光する地図。

 「うわわっ?」

 続く二人の驚きの声にそれをまじまじ見つめていると、あろうことかそれぞれのアトラクションを遮る白い壁を示すだろう白線が、蠢く白い蛇のように地図上をのたくり出したのだ。 

 「……っ」

 思わず声を失い、無意識の防衛本能なのか、腰を引いて後退さるオレに構わず、動きを止めない白い壁は、やがて先ほどまで見ていた地図とは、まったく別のものを作り出していて。
 

 「あっ! う、後ろ、入り口がっ!」

 叫ぶ快君にならってそちらを見ると、今までそこにあった三輪ランドへの入り口が消失していた。
 慌てて地図を見返すと、確かに入り口があった場所にはのっぺりとした白い壁を現すであろう白い線が引かれており、ばっと見渡してみても、外に出られそうな出口は存在していない感じだった。


 オレは、一体どんなリアクションを取ればいい?
 もしかしたら、こんなことが起きるかもしれないなって考えているのと、実際に体験するのとじゃ雲泥の差があるってのを実感してしまった。

 こんな時、忙しいのは目だ。
 互いに縋るような視線の快君と目が合い、何だか気まずくなって眼を逸らし、中司さんが見た目はそれほど驚いてなさそうなのにまた驚いて、まるでくるくる回転するかのように、入り口を、地図を二度見、三度見する羽目になる。


 「ふーん、本当に『当たり』だったわけね。おもしろいじゃない」
 「どうしよ、どうしよう! 閉じ込められちゃったよ!」

 どうしたらいいのか分からない時、何をしたら自分にとってプラスなのか分からない時は、人は活動を停止するしかないらしい。
 そんな、呆然としかけのオレの前で、二人は対照的なリアクションをした。
 
 一方は、強がりであって欲しいのに、女は強いって思わずにはいられないようなわくわくした表情。
 もう一方は、声は真に迫っているのに、本当は余裕があるんじゃないかって思える、おどおどした表情。
 
 その絶妙なまでの正反対さに、オレはかえって冷静になってしまった。
 オレの役回りって、何だろう?
 そんなことを考えてしまってる自分に気付いたのもある。
 
 そして、冷静になったまま、今まで気にしていなかった看板に目をやる。
 そこには。

 『三つのサーキュレイトに導かれし者のみ、光を指し示す』

 と、書かれていて。

 とりあえず、意味はすぐには分かりそうもなかった……。



         ※      ※      ※



 オレたちは自分を何とか落ち着かせた後、地図のある場所から当初の予定通り、『プリヴェーニア』に向かっていた。

 幸いなことにそこまでの道のりには変化がなかったし、何かしていないと、そのうちこの白い壁に押しつぶされるんじゃないか、なんて考えたのもある。

 半ば早足で進む先に見えるのはそんな白塗りの壁、そして空の機嫌が悪くなったのを表すかのような、灰色の雲の塊だった。

 「あれって入道雲だよな? あんな厚くてでかい雲、真夏にしかないって思ってたよ」
 「そういえばそだねぇ。普段はこんはふうに雲見る機会なんてないから、気が付かなかったよ」

 元来飽きっぽい所のあるオレは、単調な白の道のりにすぐに耐えられなくなり、そんなことを口にした。
 それにうまい具合に相槌を打ってくれる快君は、流石に聞き上手、と言ったところか。

 「そうかしら? 入道雲……積乱雲なんて、一年中あるものでしょう? 雨は一年中降るんだし」

 するとすかさず、会話に参加するべく、中司さんの鋭利な突っ込みが入る。
 それだけを取っても、中司さんの会話ベタな所? が良く分かる。

 なんて言うか教科書的、なのだ。
 その融通の利かない所が、逆にいい人にはいいのかもしれない……なんて事を考えていると、そんな中司さんの言葉を受けたのは、快君だった。