正常な世界にて
「せ、先生すみません。ちょっとお手洗いに行かせてください」
私はイスから立ち上がる。今は授業中だ。当然、クラスメート全員から注目を浴びる羽目になる。うっ、緊張で余計気持ち悪い……。
「おいおい大丈夫か? 早く行ってこい!」
幸い、話がわかる先生だったから、私はすぐに教室から飛び出す。吐き気のバローメーターは上昇中だ。一刻も早くトイレに駈け込まなくては……。
「先生!! ちょっと面倒みてやってきます!!」
教室のほうから、坂本君の声が聞こえてきた。混乱で気持ち悪くなっただけなのに、さすがイケメンだね……。女の子たちが羨ましげな悲鳴を発する中、彼が私を追いかけてきた。去年死んだ木橋の一件みたいな流れだね。すると高山さんも追いかけてくる展開かな?
……少し寂しさは湧いたけど、彼女は追いかけてこなかった。まあ恥ずかしいから、これでよかったのだ。
「ぼぉえ〜〜〜!」
洋式便器の中へ、威勢よく吐く私……。坂本君は、ゲロから目を背けつつ、私の背中を優しくさすってくれている。手つきが少しエロい気がするけど、文句は言えないね。
「もしかして妊娠したのか? 少なくとも、ボクの子じゃないのは確かだからな?」
こんなときにふざけたことを言うなんて、さすがに文句を言いたくなったよ。念のためだけど、私はまだ処女だ。
「……ごめん。大丈夫か?」
私の怒りを察したらしく、彼はそう言ってくれた。
「ぼぉえ〜!」
これで吐き切った……。胃袋はすっかり空っぽだろう。ちょっとしたダイエットにはなるかもね?
「……ありがと。もう大丈夫。早くここから出たほうがいいよ?」
私と坂本君がいるのは女子トイレの個室だ。とはいえ、ドアは開けたままだし、状況が状況だから、坂本君が捕まる可能性は無いだろう。でも、面倒をかけてしまうし、なんか恥ずかしいから、彼はここから出したほうがいい。
「それもそうだな。でも、すぐ外にいるから安心しろよ?」
彼はそう言い残すと、女子トイレから出ていった。やっぱりさすがイケメンだね!