正常な世界にて
そして、普段より遅い地下鉄に乗る私たち。降りる駅はバラバラだけど、束の間の雑談タイムだ。帰宅ラッシュの時間帯で、私たち三人は吊り革で立つしかないけど、全然構わない。
「ねえ、今度の日曜日は空いてる?」
高山さんが私と坂本君に尋ねてきた。
「空いてるけど」
「ああゴメン、ゲームす」
「良かった! 二人とも大丈夫で!」
坂本君の拒否をスルーする形で、高山さんが言った……。ため息をつき諦める坂本君。ゲームなんていつでもできるからね。
「映画?」
私は尋ねつつ、何が上映中かを思い出そうとする。
「ううん。映画館ではなくて、東山公園へ行こう。少し暑くなるそうだけど、名古屋市内だから行きやすいでしょ」
東山動植物園ね。あそこは遊園地的な要素もあるけど、今風の華やかさはない。けど久しぶりだし、この二人と行くのは全然悪くない。
「ウン、いいな。あそこはコレを使えば、無料で入れるし」
坂本君はそう言うなり、ズボンのポケットから障害者手帳を取り出す。へえ、無料か。
とはいえ、私はまだ持っていない。元々安い入場料だけど、自分だけ払うのは心地良いものじゃないね。
「森村さんも無料になるから大丈夫だよ。付き添いとして二人まで無料になるから」
高山さんが教えてくれた。それなら損せずに済むね!
「へー、それは知らなかった。それを使って、ナンパしてみようかな? 『ねえ、ボクの介護士になってくれない?』という感じでさ!」
「お昼ごはんは、私が用意していくから心配しないで!」
「ありがとう! 楽しみにするね!」
電車内で周囲の目があるというのにも関わらず、ヤバい発言をする坂本君を、私たちは全力でスルーした……。
友達と遊びに出かけるなんて、中学最初以来だから、私の心は早くも高揚感で一杯だ! どんな括りでも、友達や仲間を持つというのは大事なことと思えた。