正常な世界にて
……私の中で、「日常」や「狂った」という定義が揺らぎ崩れつつある。いや私自身だけじゃなく、いたぶられるガンガールも含め、みんなそうだろうね。少なくとも、確固たる自信を持てないはずだ。
しかし、自分自身に問いかけながらも、私は行動に移していた。元々の本能や本音に突き動かされる私。
いつの間にか、右手にはピストルが握られ、残弾や安全装置解除を把握できていた。メガホンは足元に落ち、スピーカーは微かなノイズを奏でるのみ。
私の中で、「やるべき事リスト」が更新され、最優先事項が脳内でギラギラ輝いていた。興奮からの高熱を感じるほどに。
心身がこういった状態になるのは初めてじゃない。きっと、ADHDの衝動性なんだろう。幸い、今回は善行となる。
「我を忘れた」というと、本格的に狂ったように思われるけど、自分の意志は確かに存在した。
私が取った行動は、ピストルでガンガールの頭を撃ち抜いたことだ。正確には、彼女の左こめかみに一撃必中をくわえた。アクション映画のカッコいい主人公っぽく、スマートに撃てたと自負できる。
「ハア、空気読みなよ?」
ところが、坂本君はちっとも感激などしていない。いつもの嫌味口調だけど、以前よりも強く聞こえた。
「空気? 冷たく残酷なことやる空気を?」
思わず言い返した私。以前なら後悔したけど、今の私は違う。失言や暴言から巻き起きる問題など、つまらなくちっぽけに思えた。
死体かた立ち上がり、眼前に立つ坂本君。怒りには発展していない。
「……だってさ、思い切り痛めつけ殺したほうが、高山へのいいメッセージになるじゃん?」
「そんな必要ある!?」
また言い返してやった。さらに強気でね。
「その、そうだ、なんか武器持ってるかもしれないだろ? 別のをコッソリとさ?」
坂本君は弁解する。強制的に止められた点もあり、戸惑いを隠せない。
「えっ!? そうなら無理に拾おうとしないよね!?」
「……なぜそんなムキになるんだよ? もしコイツが中高年のハゲたオッサンだとしたら、同じように動いたか? 目の不自由な女の子じゃなかったらさ?」
話の流れを逸らす気だね。負い目を感じ始めている証だ。
「……あっ、うん。もちゅ、もちろんだよ!」
つい油断してしまい、口調がぎこちなくなる。ああ、もちろん動いたよ、きっと。
「おいおい噛んだろ?」
まずい、付けこまれる!
「二人とも、それ以上は良くない!」
最高のタイミングというべきか、伊藤がそこで割って入る。