正常な世界にて
……ああ、小さな火傷が背中にいくつかできてしまった。これはうつ伏せじゃなきゃ、しばらく寝られない。
「あっ、ごめん!」
彼はそう言うと発砲を止め、私の指先からそれを摘まみとる。そして、高熱に顔をしかめながら投げ捨てた。
小言をぶつけたいけど耐え、スコープを再び覗く。今度またやったら、別れ話を考えようかな?
「……あっ」
スコープごしに、彼女を視認した直後だ。順調に降下していた彼女がバランスを崩し、そのまま落ちていく。自由落下に近いスピードで、彼女はスコープ内および視界から消えた。
「あれ? いなくなった?」
肉眼でも確認できたほど。
彼女が突然落下した原因は、すぐにわかる。両足をついていた壁に、血が飛び散っていた……。坂本君に妨害されながらも、私の銃弾が届いたんだ!
壁の血はべっとりじゃないけど、なかなかの出血量だ。少なくとも、月経のそれよりも多い。
男にはわかりづらいから、他で例えよう。……そうだ、道を汚すゲロとツバの中間ぐらいの量だね。つまり、なかなかの飛び散り具合。
銃撃を受けた彼女は、激痛に耐えられず、ロープから手を離したのだ。降下する器具に安全装置があったようで、落下は少々緩やかではあった。
だがそれでも、銃創もあり、今ごろ地面で痛みを訴えているはず。できれば、断末魔の叫びであってほしい。
「おっ、やりい!!」
坂本くんが雄叫びをあげる。私のなかで達成感がこみ上がるよりも先に。
「見た? 見たよね? やったよ!」
自動小銃を頭上に掲げる坂本君。完全に自分の手柄だと思い、無邪気に喜んでいる……。
しかし私自身は、自分の手柄だという自信を持てなかった。私は自分の弾道を確認できず、背中に入りこんだ空薬莢を探すしかなかった。そして、原因の彼は気づくまでの数秒間も、発砲し続けていた。「数撃ちゃ当たる」形式もありえる。
なので悔しいけど、坂本君の銃弾である可能性を否定できない。悔しい気持ちで一杯だ……。
「うん、すごいね!」
自分の気持ちを押し殺し、素直に認めてしまう私。ああ、こんなままじゃダメなのに……。たぶんムダだろうけど、ここは彼に一言を。