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正常な世界にて

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 そして私たちはまた、電車内で吊り革を握っている。幸い、暴れ出しそうな乗客は見かけない。
 一安心すると、高山さんが警察官に精神障害者手帳を見せた理由や、見せて大丈夫なのかが気になってきた。
「お巡りさんにさ、あの手帳を見せちゃって大丈夫なの?」
彼女に小声で尋ねる。
「ああ、全然大丈夫。悪い事したわけじゃないし、珍しいことじゃないはずだからさ」
サラリとそう答えてみせた彼女。
 そして、電車は高山さんが乗り換える駅に停まる。私の駅はもう少し先だ。
「じゃあね!」
「うん」
放課後から今まで何もなかったかの如く、彼女は爽やかな調子で去っていく……。


 平静を装いながら帰宅する私。普段よりかなり遅くなり、自宅マンションからは、窓の漏れる光が眩しく見えた。
「ただいまー」
玄関には母の靴だけでなく、父の革靴もある。珍しく早めに帰れたようだ。
「おかえりー」
「ああおかえり」
「比奈、遅かったな」
リビングから両親の返事が聞こえてくる。昨日までの日常なら、軽くほっとできる瞬間だった。
「…………」
精神科でADHDの診断を受けた経緯を、両親に伝えるかどうか迷う……。けど、いつまでも玄関にいるわけにいかず、リビングへ向かう。足取りがここまで重くなるのは初めてだ。
「遅かったわね」
「高校生になったからといって、夜遊びしちゃダメじゃないか」
私がリビングに入るなり、両親が言った。
「う、うん……」
診断の件で悩みに悩む私は、素っ気なく返すしかない。
「おい、どうした?」
「学校で何かあったの?」
さっそく異変に気づかれた。さすが親だけある。
「ええっと、実はね……」
勢いというか衝動的に、このまま一気に話してしまおう。
 ただし、高山さんに誘われてではなく、自分から行動したことにする。彼女を巻きこむのは、かなり悪い気しかしない。

作品名:正常な世界にて 作家名:やまさん