正常な世界にて
どう言い返すべきかを考えていると、彼女は死角から歩み出て、坂本君の正面に立つ。彼女の両手には、拳銃も何も握られていない。バターナイフすらも握っていないけど、彼女は堂々と私たちの前に立ってみせている。
まあ、小さな拳銃や刃物をコッソリ隠し持っている事は十分にあり得るけどね。今すぐここで、彼女を取り押さえようとした途端、彼女はロングスカートをめくり上げ、太ももにバンド留めされたホルスターから拳銃を抜く高山さん。ハリウッド映画でよくある、カッコイイワンシーンだ。そんな華麗なアクションを彼女が披露しても、今さら私は全然驚かないね。
「ちょっと探検していただけだよ」
坂本君は言った。正直な回答には間違いない。
「あらそう。それで、収穫はあった? いやあったでしょ?」
当たり前だけど、すっかりバレている。
「…………」
坂本君は無言になる。もちろん、私も無言だ。こうなっては、もう何も言えない。高山さんにどう言えば弁解できるなんて、考えるだけ時間の無駄だ。
「今回の件だけじゃなくて、あなたたちの行動は筒抜けになってるんだよ?」
高山さんが言った。初めて耳にするレベルの、とても真剣な口調だ。
「チェーンソーを持った男に追いかけられた事も、銃撃からなんとか逃げた事もね」
彼女はすっかり知り尽くしているようだ。所属する組織から彼女へ、私たちの情報が伝えられたんだね。救いなのは、彼女の口振りから、彼女が私と坂本君を殺すために関与してはいないという事だ。
「ボクのこともバレバレだったのかよ……」
落胆を背中で語る坂本君。こんな状況だから、弱々しく見えてしまう。いざというときに、つまり今すぐ陥りそうなとき、彼は私を守ると言っていた。ホントに守ってくれるのかな? 心の中でつい疑う私だった。
「もうあなたたちは、無関係な一般人ではないよ。味方でも敵でもない立場というわけ」
「じゃあさ、殺されるも殺されもしない立場というわけだ。どうする気かなのかをハッキリ言ってくれよ!」
そう言い捨てた坂本君。普段からせっかちな彼らしい。
「……そうね。ただ今さら、白でも黒でもどっちでもいい気がしているんだよ」
「おいおい」
私も早くハッキリさせてほしい気分になってきた。
「あなたたちはどうしたいの? 本当に聞くだけになるかもだけど、希望を聞きたい」
そう尋ねてきた高山さん。彼女はいったいどんな立場なんだろうね?