正常な世界にて
私はお酒に弱い体質らしく、残念だけど遠慮しておく。ところが、坂本君はというと、早くもグラスを掲げ、シャンパンをもらう気満々な様子だ。グラスのオシャレな持ち方からして、お酒には慣れているようだね……。
彼が話したがらないから、深く聞いたことはないけど、彼の母親は錦のクラブを経営してるそうだ。いわゆる「ママ」というやつだね。まだ高校生の彼が、お酒に手慣れた感じなのは、そういう事情が関係しているんだろうね。
「ポォン!」
高山がシャンパンの栓を開けた。独特の心地よい音が響く。幸か不幸か、栓が飛ぶこともなく、彼女の手の中に残っている。部屋の電灯を割ったりしてしまう「お約束」は起きなかったわけだ。
シャンパン希望のクラスメートや坂本君たちが、空のグラスを持って集まり始める。飲酒できるクラスメートたちは、ウチのクラスにかなりいたらしい。その一方で、シャンパン希望じゃないクラスメートたちは、テーブルにあるジュースのピッチャーなどから、好きな飲み物を調達する。私はというと、オレンジジュースをグラスに注いだ。このオレンジジュースもきっと、なかなかの高級品だろうね。もちろん果汁一〇〇%で、濃縮還元じゃないストレートのやつで。
全員がグラスを手にし、高く掲げる。
「じゃあ乾杯! メリークリスマスね!」
高山さんが楽しげに音頭を取った。今さらだけど、いったい何が「メリークリスマス」なんだろうね。前から何度も気になってる事だ。まあ今考えるのはよそう。
部屋のあちこちで、グラスの冷たい衝突音が鳴り響く。クラスメートが徘徊し、競うようにグラスをぶつけ合う。私もノリに流される勢いで、グラスを何度かぶつける。矢継ぎ早に乾杯を次々に求められちゃう。
乾杯のノリが和らいだので、ようやく飲むことができた。ゴクリゴクリと、喉が揚々と働くのを感じる。
「おいしっ!」
素直な感想を大きく漏らした私。場が賑やかなおかげで目立たずに済む。
果実そのものを食べているような、果肉感を味わえるオレンジジュースだ。少なくとも、自販機でこのレベルのオレンジジュースを買えないね。キッチンで絞られたばかりの濃厚な一杯だ。ああ、心と体が癒されていく。