正常な世界にて
「ボクはおまえを守る! だから、危険な目にこれ以上遭わせるわけにはいかないよ!」
坂本君はそう言うと、私の肩に両手をドカンと強めに置いた。
「そんな強引な!」
「偉そうで悪いけどお願い!! お願いだから、これ以上はもうやめてくれよ!!」
坂本君は声を荒げる。彼の必死さが、勢いよく私にぶつかってきた。ここまでの強い意志で守ってもらえるなんて、罪悪感が浮かんできちゃうね……。
「……わかったよ」
坂本君の思いを受け入れることにした私。仕方なく納得したとはいえ、心が急に楽になった。ズシリと乗っていた重い岩が、一瞬で消え去ったような感覚だね。
高山さんとの仲直りや、真相の究明を諦めた理由は、彼の説得によるものもあるけど、自分の中で楽になりたい気持ちがあったからだろうね。「楽になりたかったから」だとすると、これから自己嫌悪に陥ってしまう。だから私はすぐに、「やるべきことはやった!」と、自分自身を納得させた。
ネガティブに陥るのを防ぐため、馬力を持って奮起する私の脳。グワングワンとした感覚を、頭から乱暴に受け入れる。
これでいいんだ! 実際に私は、リスクを犯し、精一杯努力したじゃないか! もうこれでいいじゃん! 諦めてもおかしくないじゃないか!
高山さんと仲直りできないのは残念だけど、これからの長い人生を考えれば、こんなことはよくあること! そもそも、私が何か悪い事をしたわけじゃないじゃない!
真相の究明? わざわざそんなことしたって、何か得をするわけでもない。好奇心からくるただの自己満足だ。
……脳内に浮かびつつあった自己嫌悪感は、これですっかり一掃された。これからは、移りゆく世の流れに身を任せればいい。下手に悪あがきをしないほうが、自分のためになる確率が高そうだ。なにしろ私は、安全に暮らせる側の人間なんだからね。自分自身のことを考えれば、見て見ぬフリをしても仕方ないじゃないか!
とはいえ、好奇心や罪悪感は、これから何度も湧くだろうね。とりあえず今は、ひたすら自分を納得させるしかない。私はまだ高校生で一人の人間だ。それから、発達障害という重荷を背負っている……。