正常な世界にて
【第14章】
――結局、高山さんと仲直りできないまま、1学期が終わり、夏休みも虚しく過ぎ去ってしまった。そして今は、2学期の始めの1ヶ月が終わろうとしている頃だ。
アメリカとロシアに攻めこまれたドイツが、無条件降伏へ先週追いこまれた。今は「人類に対する罪」とかで、偉い人が次々に裁かれる最中とのこと。
時の流れには、普通の人だろうと、発達障害の人だろうと、偉そうな独裁者だろうと、逆らえない。時に流されつつ、何かの行動を起こすというわけだ。私も時に流されつつ、仲直りするための行動を何度も起こしていた。何もしてなかったわけではない。
勇気を振り絞り、夏休み中に何回か、高山さんを遊びに誘った。映画や買い物にね。ただし、坂本君は抜きでだ。これなら大丈夫だろうと、私は期待した。
けど、すべて断わられてしまった。それも、友達同士の口調じゃなくて、他人行儀の堅苦しい口調でだ……。もう彼女は、私と坂本君を友達だと思ってないかもしれない。そう考えた途端、悲壮感に包まれる。とはいえ、私が先に、こんな悲しさを彼女に与えてしまったのだから、彼女を責めてはいけないね。
「断わられるに決まってるじゃん!」
坂本君は呆れ笑いを浮かべていた。イラッときた私。
ある日の放課後、学校帰りの私と坂本君は、喫茶店のコメダに寄っていた。テーブルには、私のホットコーヒーと彼のアイスコーヒー。彼はどちらかというと暑がりだからね。
「だけど、せっかくの大事な夏休みじゃない。楽しい思い出をつくりたかったんだよ」
無駄な過ごし方をしてしまったと、私は改めて悔しさを抱く。
「高山とは仲直りできないって。それに彼女は、危険なことにやってるんだろ?」
「それも理由だよ。友達なら止めるべきでしょ?」
「……友達じゃないことにしたほうがいいよ。巻き添え喰らいたくないし」
「そんな冷たいこと言わないで!」
声がつい大きくなってしまい、隣のテーブル席にいる老婆たちがチラ見してきた。しかし、声の勢いはそのまま続く。
「こうなったら、あの仕事場に直接乗り込んで、説得するしかないね!」
そう言い切ると、坂本君は目を丸くして驚いていた。
「……マジで言ってる? 最悪のアウェーで、あの仕事場の誰かに刺されたって、ボクは全然驚かないよ?」
「マジのマジだよ! 私は一人でも行くからね!」
思わずそう言い切った私は、席から立ち上がり、伝票を手にレジへスタスタと向かう。その勢いのまま、会計を済ませる私。坂本君の分も払うことになるけど、これは恩を無理やり着せる狙いなんだよね。彼は男として、すぐにこの恩を返そうと動くだろう。今回は、私の付き添いとして返してくれるはずだ。