正常な世界にて
『なぜ、そんなことが起きるんですか?』
『文明が急激に発展しすぎたから』
リセットの理由を教えてもらったものの、どうもピンとこない。
『それに対応できない者たちが増えた』
これは発達障害者のことを指しているようだ。確かに、私は現代に対応できていない人間だといえるね……。
『リセットによって、文明と人間のバランスを調整するというわけ』
彼が続ける文章を読んでいると、少しずつ理解でき始めた。カッコよく言えば、「究極のバリアフリー」というわけだね。
このリセットは、私のような発達障害者だけでなく、他の障害者たちにも朗報であるには違いない。だけど、素直に威勢よく喜んではいけないね。無政府状態ということは、もっと酷い惨劇があちこちで起きるに違いない……。彼にそのことを問い質さずにはいられなかった。
『発達障害者のお前は、たぶん大丈夫だ。もしものときは、障害者手帳を見せてやれ』
ところが、返ってきた回答はコレだ……。心配なのは、自分の身だけじゃないのに。とはいえ、坂本君や高山さんの身もこれで大丈夫だとわかった。だけど、私の家族は……。
『籠城すれば助かるかも。水と食糧を確保だ』
現実的な助言だね。つまり、静かに隠れているしかないらしい。昔の農家が、キチガイの家族を幽閉するときに使っていた座敷牢が、いい隠れ場所かもね……。
『リセットは止められない?』
一応は聞いてみるべきだよね。
『無理』
そっけない即答が返ってきた。まあそうだよね。発達障害者とはいえ、私は普通の女子高生に過ぎない。勇者や超能力者ではないのだから……。
『障害者による事件は、関係あるの?』
他の質問に移る私。あと、高山さんのことを尋ねなくちゃね。
『リセットへの邪魔者の処刑だ』
やっぱりそうなんだ……。確かに、殺された人々のほとんどは、障害者を快く思ってはいなかったね。
『ある男子と仲がいいせいで、高山さんとの関係がうまくいってない。どうすれば?』
ある男子とは坂本君のことだ。
『その男を捨てて、高山一筋の関係でいくしかないな』
ジャンル違いの質問のせいか、遅い返答だった……。しかし、極端な案を提案してくれたものだね。こんな案は無理だと、すぐに心の中で決めた。高山さんの陰謀に加担しなければいけないじゃないか……。
質問はこれで以上だ。悲惨な現実を知り、尋ねる気力を失ったときだから、ちょうどよかったね。それを彼は察したらしく、おやすみなさい的なスタンプを送ってきた。
私も似たような意味のスタンプを送り、今回のやり取りを終える。