White Love
出会い
彼女との出会いは突然であった。
「火、貸してくれる?」
喫煙所で話しかけられる事などほとんどないので、僕は面食らってしまった。
「ライター、貸してくれる?」
彼女は子供に伝えるように、言い直した。
無言で僕の黒いライターを差し出すと、彼女はありがとうと言って、煙草に火をつけた。
少しむっとしてしまっていたのか、彼女から見られてしまった。
「ライター、そんなに貸したくなかった?」
彼女はそういうとふふっと笑顔を見せた。
僕はあまり話すのが得意ではないので、話しかけてきてほしくなかった。
「おもしろいのね。」
そっぽを向こうとする僕に向かって、彼女は言った。
半分以上も残った煙草を無造作に灰皿に押し込み、紫の煙が広がっていくのと同時に彼女はもう一度僕にありがとうと言い、去っていった。
勘違いしてほしくはないが、僕だって男だ。いろいろな小説をみたりしたが、こんな出会いから恋愛に発展したケースはいくらでも見た事がある。それを憧れたりもしたが、実際あんなに突然こられるとどこをどうすれば話す事ができるのか分からなかった。ましてや連絡先を聞くような芸当、僕にはできない。
うまく受け答えなかったのは、彼女が美人だっただけではない事を、仕事に戻って思い出した。自分は仕事の時以外誰にも話さないし、話しかけられない。別に嫌っているわけではなくて、きっかけが無いだけなのである。
こんなしけた男があんな美人に話しかけられただけでもよしとするか。
僕は自分にそう言い聞かせ、仕事にもどった。
しかし、彼女はそううまく僕の頭の中からは離れてはくれなかった。
作品名:White Love 作家名:荒岸来歩