サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第一話
なのにオレだけがまるで蚊帳の外にいるように、それを実感できないのだ。
周りに合わせて驚いて頷いているだけ。
心内では、何を言ってんだ?って感じで。
オレはそれが、物凄く悔しかった。
何でオレだけ、次こそはっていつも思っていた。
非日常なことを体験できるのなら、命の危険に晒されてもいい、そんな風に思っていた。
「ま、問題ないさ。何せ今回のグループリーダーは雄太君、君だ。君の働きに期待しているよ」
すると、こういう時に限って、オレの考えてることなど知る由もない、といった感じで言葉を続ける部長。
それはつまり、オレがいるから何も起こらなくて安心、ということなのだろう。
「……本気なんですね、部長」
オレにそんな期待をしていいのか。
本当に何も起こらないのか。
不安と期待が複雑に入り混じった思いで、オレは呟く。
「マジもマジ、大マジだよ」
すると、返ってきたのはおどけた調子のそんな言葉だった。
それに、オレは思わず溜息をついてしまう。
やっぱり、期待させといて今回も何も起こらないのかなって。
「だが、今回は雄太君にとって真の当たりかもしれないぞ?」
かと思うと、一体どっちなんだよって感じのセリフ。
からかうような声色に、自信ありげなイントネーションが混じる。
「……」
結局。そこには、だったらいいなと、間違いなく期待しているオレがいて。
今日も今日とて、そんな感じに、部長にいいようにあしらわれるわけだが。
「それで、オレはそのことをほかの国内組のメンバーに通達すればいいんですか?」
そして、話を纏めるようにオレがそう言うと、何故か部長はお手上げのポーズをした。
「何を言ってる、ほかのメンバーにはとっくに伝えたよ。君が自分に酔ってる時にね。
ほら、これが今回の実地体験のしおりだ。……参加意思のあるものは、いつもの通り、いつもの日時、その朝に東京駅に集合、分かったかな?」
いつもの日時とは、いわゆる給料日の次の日のことだ。
確か、今月の給料日……二十日は銀行が休みである休日だから、給料を受け取るのは前倒しになって……ええと、つまり、二十日が実地試験の初日ということになるのだろう。
「雄太君は国内組のリーダーなのだから、しおりに沿って下調べをしてもらえると助かるな。まぁ、僕の作成したしおりに、ぬかりなどあるはずもないが」
そんな事を考えているオレを遮るように、部長は得意げにそんな事を言ってくる。
いつの間に、というよりこれはいくらなんでもぼっとしすぎだろ。
つまり、部長はオレだけのために二度手間をしてくれているわけで。
思わず、頭を抱えたくなる、この失態。
「返す返すすみません……」
これは結構問題だなあと思いながら、低頭してそのしおりを受け取るオレなのであった。
(第2話につづく)
作品名:サーキュレイト〜二人の空気の中で〜第一話 作家名:御幣川幣