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連載小説「六連星(むつらぼし)」第71話~75話

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 さらに、今後に始まってくる使用済みの燃料や
溶融してしまっている原子炉の、燃料の取り出し作業の工程などを見据えると、
「廃炉作業が進むほど、線量の高い場所での作業が増えてくる」
と見通しています。
緊急被ばく医療の体制などを、さらに整えておく必要性も強調しています。

 福井県からの医師が多く、56ERに入っている理由をについて
福島第1原発救急医療ネットワーク代表で、
広島大病院高度救命救急センター長の谷川攻一教授は、
「福井県では救急医療と被ばく医療、双方に通じた医師が多く育成されてきた」
と説明している。

 3次被ばく医療機関である同大病院から見ても、福井県の医学教育は
「被ばく医療教育が、きわめて充実している」と映っている。
福井から派遣されている医師は皆、福井大医学部の専門研修や県費の派遣で
米国の「リアクツ」(REACTS=放射線緊急時支援センター研修施設)に
留学した経験を持っている。

 「福島第一原発の事故は、今まで救済されてこなかった原発労働者たちの
 被ばく問題について、初めて日の光を当てた。
 原発労働者たちが助かったと言う意味では無いが、一部とはいえ、
 これらが明らかになったと言う意義は、極めて大きい。
 だが医療的に見て、これですべての人たちの命が救えると言う訳では
 決して無い。
 山本氏の場合は、この先、良く持って3か月だろう・・・・。
 君に是非、お願いしたいことが有る。
 ひとつだけお願いがあるんだが、聞いてくれるかい?」


 「私でお役に立てるなら、言ってください。何でもします」

 「おっ。さすがに清ちゃんの一人娘だ。反応が良いねぇ。
 そう言ってくれると、俺もお願いが言いやすい。
 患者にとってクスリや医師の治療よりも、看護婦たちの可愛い笑顔や、
 生き生きとした表情の方が、はるかに生きる気力になるようだ。
 君のように美しい女の子が、和服を着て和やかな笑顔を見せてくれると
 患者は、予想を超えて長生きをするかもしれない。
 非科学的な言い方で申しわけないが、女性の元気な笑顔は、
 人の気持ちをなによりも癒す。
 薬よりも笑顔の方が、はるかに患者に効く場合もある」

 「常に、笑顔で山本さんに接しろと言う意味ですね。
 それなら、私にも出来そうです。
 心に命じて、喜んで笑顔を振りまきたいと思います」

 「やっぱり君は、お母さんに良く似ていて、
 見かけも心も、折り紙つきの大和撫子(やまとなでしこ)だ。
 頼んだぜ。二部式着物のナイチンゲール君」

 じゃあ、そろそろ俺も煙草を吸う時間だ。と杉原医師が立ちあがる。
立ちあがって見送ろうとする響を、いいからと手で制する。
折角のコーヒーが、長い話で冷めてしまったようで申しわけないと、
細い目を、さらに細くして杉原が笑う。

 「それでは私が、私の分と先生にもう一本、
 苦いコーヒーなどをご馳走いたしますが、いかがですか?」


 「ありがたい申し出だ。だがせっかくだが、それは明日にとっておこう。
 明日もまた、美人とコーヒーが飲めれば、俺にも生きる張り合いが出てくるというものだ。
 じゃまた明日。苦いコーヒーをここでよろしく」

 杉原医師が笑い声を残し、いつものように肩を揺らして
廊下の彼方へ消えていく。

(76)へつづく