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連載小説「六連星(むつらぼし)」第66話~70話

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 (若狭で生まれた山本さんが、どのような経過を辿ったのか知りませんが、
いつのまにか、原発を渡り歩く原発労働者になっていた。
全国の原発を渡り歩いた末に、東日本大震災で地獄と化してしまった福島で
原発労働者として最後の時を迎えた。
何とも皮肉な話です。
原発の持つ悲劇を、そのまま背負って来たような過酷過ぎる人生です。

 私の知っている日本はもっと安全で、もっと平和な国のはずなのに・・・・
水面下では、こんな恐ろしいことが平然と行われているなんて。
平和なはずの日本に、こんな地獄が横たわっていたなんて・・・・
政府がおおくのことを隠し、マスコミが報道したがらない事実が有ることを、
私はこの歳になって初めて知った。
日本の原発には、まだまだたくさんの嘘が隠されている。
3・11のあの日から、何かの拍子で、隠ぺいしてきたものが
露呈し始めてきたんだ。
原発の欺瞞と醜態の実態が、ようやく私にも見えてきた・・・・)

 響が血がにじむほど強く、唇をかみしめる。

 響の入れたお茶を、美味しそうに呑みほした山本が、ホッと短い息を吐く。
肩から力を抜き、背中が丸まってくると、痩せこけてきた山本の姿が、
さらにまた一回り小さく見える。

 「両親が最初に暮らしたのは、常神半島です。
 若狭湾にゴツゴツした形で、細く突き出ているのが
 常神(つねかみ)半島です。
 半島の中央に、二つに分けるように急峻な尾根が走っています。
 尾根の東側にあるのが美浜町で、西側は若狭町です。
 若狭町の側には、入り江ごとに点々と集落があります。
 険しい断崖ばかりが連なる美浜町側に、家はまったくありません。
 ただ一カ所だけ例外的に、「くるみ浦」と呼ばれた場所に、
 小さな漁村がありました。
 遠浅の海がどこまでも続いている、くるみ浦は久留見(くるみ)浦、
 あるいは久留美(くるび)浦と呼ばれました。
 岩壁に、海水によって浸食された洞窟などがたくさんあります。
 夏になると、日向から渡船などに乗って、海水浴の客がたくさん訪れます。
 ですが、漁村自体はすでに廃墟です。
 すべての住人が去り、集落は、まったく無人と化しています。
 石積みや、加工された石材などはそのまま残っています。
 神社跡ではないかと思われるような場所も、当時の姿のまま残っています。
 田畑や人家の跡と見られるわずかな平地は、戦後になってから、
 杉が植えられ、その中を小川が流れていたそうです」

 「廃墟になってしまった、くるみ浦ですか・・・
 でも実態とは裏腹に、名前はずいぶんとロマンチックですねぇ」

 響が2杯目のお茶を入れ、山本に手渡す。
受け取った山本が、そのまま口元へ運び、静かにお茶をすすりこむ。
『旨い』。そのひと言の中に、山本のたくさんの感謝の気持ちが
込められている。

(71)へつづく