焼き芋
買いたいんだけど。
家の玄関をちょっと開けて外を見る。
あ、まだ焼き芋屋さんがいる。
ぐずぐずしていると行っちゃう。
焼き芋ー。
もう少し顔をドアの隙間から出して周りを見てみる。
近所に誰か人がいる気配はない。
よし、今ダッシュして、急いで買ってくれば大丈夫。
「おじさん!焼き芋ひとつ下さいっ」
「お嬢ちゃん、毎度どうもー。
もう一個おまけするから、待ってねー。おいしいそうなものを選ぶから」
ああ、いいのに、そんなこと…。
「よぉー」
すぐ隣で、自転車の止まる音。
うそーん。
密かに思いを寄せていた同じクラスの男の子じゃない。
「お、お母さんがね、買って来てって…」
と、聞かれてもいないことを口走る。
「はい、お嬢ちゃん、お待ちどうー♪いつもありがとねー」
『いつも』なんて、言わなくていいのぉー!
お金払って、おじさんの手から紙袋ひったくるようにして、
「じゃ、じゃあね!」
と、走って家に帰る。
もう、穴を掘ってまで入りたい。
せっかくの焼き芋なのに、そのまま食べずに台所のカウンターに置いたまま。
結局、お父さんとお母さんが、夜食に食べていた。
次の日。
教室に入っても、憧れの君の顔を見るのが恥ずかしくって、うつむいたまま。
こっそりと座席に着く。
教科書で顔を隠すようにする。
ガタ…
前の座席の椅子に誰か座った。
「よぉー」
うそーん。
顔が真っ赤になるのがわかる。
「昨日の焼き芋、うまかったか?」
言わないでー。
「だ、だから、あれはお母さんに言われて…」
教科書の上から少し目を出す。
目の前に、憧れの君の目があった。あわてて目を伏せる。
「今度、俺にもおごってくれよな」
キュン。
「…う、うん…」
ちらりと目を上げる。
憧れの君、私を見つめて目を細めて微笑んでいた。