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きんぎょ日和
きんぎょ日和
novelistID. 53646
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宗教のおばちゃんとの勉強~ズッキーニの話~

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ズッキーニが初めて喋ってから最初の宗教の勉強の日、いつも通りの律儀なインターホンが鳴った。
やっぱりそこはマジメ!!

笑顔でおばちゃんは登場するといつものように、
『こんにちは。この一週間どうでしたか?何かありましたか?』
と靴を脱ぎながら聞いてくる。
私に背中を向ける形で話すので、私もおばちゃんの背中に向かって返事をする。
『はい、またありました。』
と私は答えた。
『あらまぁ~、それはそれは…。ちょっと待ってくださいね。』
とおばちゃんは靴を揃えながらそう言ったので、私は一旦話を止めて、部屋におばちゃんを招き入れてコーヒーを出して、話す体制を作ってから話し始めた。

おばちゃんから、
『先ほど、また何かあったとか…。』
と急に神妙な表情をしてそう切り出してきた。
私としては神妙ではなく、おばちゃんに話すことで無神論者の私が神を少しでも信じるかもしれないのだからおばちゃんが喜ぶかも…とニコニコしていた。
そして私は輝いて、
『はい。』
と返事をし話し始めた。

『ベランダで野菜を育てているんですけど…。』
と私が話し始めると、おばちゃんは所々で相槌を打ちながら、
『まあ、それは素晴らしいことですね!!』
とか、
『野菜を育てているんですね。それは良いことだと思います。』
とかを入れてくる。
私はその反応に、一回一回肯きながら話を進めた。
『はい。そうなんです。野菜を育てていて、この前ベランダから部屋に入る時に、“うるさい!!”って聞こえたんです。振り返っても誰かいるわけでもなく…。で空耳かと思ってまた部屋に入っていたら、“あいちゃんうるさい!!文句言い過ぎ!!”とか聞こえたんです。それがどうもズッキーニの方から聞こえたので、近付いて覗き込んだら、“にらみ過ぎ!!”って聞こえて、慌てて部屋に入ったんです。』
おばちゃんは目を見開いて、
『はい。』
と答えるだけだった。
『それで、怖くなって急いで窓を閉めたんです。それでやっぱりズッキーニから聞こえてきた気がしたんです。確かめたいとは思ったんですけど、怖くて窓を閉めたままで…。』
そこで私が一旦息を付くと、おばちゃんは目を見開いたままで、
『そうです、そうです。近付いてはいけません。窓を開けてはいけません。その行動は賢明だと思います。』
と言った。
そう言われると続きが言い難くなったが、私はやっぱり言うのだった。
『私は怖くなって、すぐにお母さんに電話をしたんです。それでお母さんに話したら、最初はお母さんも疑ってたんです。でもお母さんが、“ほお~、なるほど~。そういうことか~。もしかしてみ~んな神様がいること知ってるんじゃないのかなぁ~。…いや~、知らないのは人間だけで、それ以外は知ってる気がする。”って言い出したんですけど、私はそんなこと信じられなくて、動物とか植物は神様を知ってるって言いたいのってお母さんに言ったら、“じゃあ、動物とか植物が知りませんって答えたわけ?!そんなこと知らないでしょ!!分からないのに答えを出さない。”って言われたんです。』
おばちゃんは作り笑顔のまま固まっていた。
おばちゃんからの言葉を待たずに、私は話を続けるべきかの決断を考えていたらおばちゃんが口を開いた。
『動物や植物は喋りません。』
と作り笑顔のまま強張った表情でそう言った。
『私もそう思ったんです。これもサタンや悪者たちの仕業じゃないかと…。』
と言うと、おばちゃんの表情に正気が戻り、
『そうです、そうです、それは悪者の仕業です。』
と答えた。
『私もそう思ったんですけど、お母さんが言うように動物や植物が神様を知っているのか知らないのかは分からないので答えは出せないなと思ったんです。聖書は人間にだけ与えられたもので、人間以外には与えられていないんだとも思ったんです。罪を犯したのは人間だけで、人間以外は罪を犯してはいないのでこの“聖書”は必要ないんだと思ったんです。この考えはあってますか?!』
と私は聞いた。
初めはおばちゃんと同じ考えで、悪者の仕業だと肯定しておばちゃんは笑顔になったけど、私の考えを言い始めるとおばちゃんの表情は険しくなった。
そして私の言葉に、
『いいえ、あってません。』
と作り損なった作り笑顔でおばちゃんはそう答えた。
私はまたガックリ来た。
毎回毎回こんなにも考えが外れるなんて…。
そしておばちゃんは、
『動物や植物は口が聞けませんからね。なので聖書を読むことは出来ません。ですから初めから必要がないということが分かりますね。』
とどうだと言わんばかりにそう言った。
私は腑に落ちないまま、まだ話の続きがあったので続きを話した。

『お母さんと話していて、ふと野菜に神様を知っているか聞いてみようと思ったんです。』
と私は輝いて言うと、おばちゃんは驚いて、
『いけません、いけません。話しかけるなんてしてはいけません。』
と言った。
『私もそう思ったんですけど、何もせずに答えは出ないのでお母さんと電話をしたまま話しかけてみたんです。“みなさ~ん、神様を知ってますか~?”って聞いたら、ズッキーニだけじゃなくいろんな野菜たちから、“知ってるよ~。知ってるよ~。み~んな知ってるよ~。知らないのは人間だけ。”って聞こえてきました。クスクス笑う野菜もいました。そのことをお母さんに伝えたら、“本当にそうなんじゃないの。何にも知らないのは人間だけで、人間以外はみ~んな神様がいること知ってるんだよ。”ってお母さんが言うと、豆の苗が、“そうだよ。み~んな神に感謝してるよ。神がいるから生きていられるんだよ。”って言ったんです。それを聞いて、何も知らないのは人間の方で、それ以外はみんな知ってるんだと思ったんです。野菜たちはみんな神様に感謝してるんですね。』
と私が答えるとおばちゃんは顔を強ばらせて、
『いいえ、していません。』
と答えた。
私は驚いてしまった。
どういうことだと…。
そして、
『全てのものは神様が作ったんですよね?!』
と私が聞くと、強張った表情のままおばちゃんは、
『ええ。神がお作りになりました。』
と答え、
『ですよね。野菜も神様が作ったんですよね?!』
と私が聞くと、そのままおばちゃんは、
『ええ。野菜も神がお作りになりました。』
と答えた。
『ですよね。なのに野菜たちは神様に感謝しないんですか?!』
と私が聞くと、
『ええ。感謝しません。』
とそのままの表情で答えた。
そして冷たい表情に豹変するとおばちゃんはそのまま続けて、
『野菜には感情がありませんからね。』
と捨て台詞のように答えた。
その瞬間キリストの表情が見えた。
おばちゃんの今の言葉がショックだったようだ。
ベランダから野菜たちの何とも言いようがない思いが漂って来たように感じた。
あんな言い方をされて野菜たちはどんなことを思うのだろうかと…。
私が野菜の立場だったら、めちゃくちゃ傷付くわぁ~。
でもおばちゃんたちはその野菜たちを作った大本について証すものだから、野菜たちは落ち込むはずはないと思うのだが、どうしてだろうか…野菜たちが傷付いたように感じた…。
そして私はそーっと椅子に座っているおじいさんを見た。
怒り顔だった。
見続けるのは怖いので、私はすぐに目をそらした。