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冬空からの贈り物

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「何かを真剣にやってきた事はあったのだろうか?」

「壁にぶちあたった事はあったのだろうか?」
 
 むかつく質問だ。
 そんな事、深く考えないで気がつけば体ばかり大きくなっていたし、自分というコンピューターでそんなワードを検索してみても、十六年という短い人生の中で思い当たる節は一切見当たらないとの結果が出ていた。気にしている訳じゃない、多分。
 けれどふとした時にその質問達は、俺の中にずかずかと土足でかつ、我が物顔で入り込んでくる。

「本当に?」

「それで平気?」

「苦しくない?」

 ……むかつく、むかつく。関係ない、余計なお世話、放っといてくれ! だから俺は全力でそんな質問達に対抗する為、ぶれない自分を保ち続ける事を心に決めていた。
 現に今もこうやって

(サンタクロースがトナカイに乗って空からゴキブリか何かをばらまいてくれればいいのに……)

 なんて「真剣」や「ぶちあたる」という言葉とはほど遠い、クズ丸出しの発想をしていたのだから。





短編「冬空からの贈り物」





 勘違いのないように先に言っておく事にしよう。俺の性格は良くない、いや悪い、むしろひん曲がっている。どこでどう間違えたのか、それともそんな才能が生まれつきあったのか、それは俺にもわからない。
 ただ今、自分の目の前で起きている光景を見て勝手に脳がそんな信号をキャッチしてしまっているのだから、何とも救いようがない。
今日はクリスマス。街にはイルミネーションとかいうちょっと気取った名前の光の塊がチカチカと発色し、もう何百回と聞いて耳にタコができるようなクリスマスソングのメロディは、聞いている側の気持ちなんて一切関係なくだらだらと外部へ放出され続けている。
 何ともお気遣いの有り難い事だ。
 そんな「今日の主役は俺達私達以外には考えられない」と言わんばかりの恋人達を、死んだ魚のような目で眺めている俺にとっても実に有り難い。有り難すぎて溢れでた涙が運河を作ってしまいそうな勢いだ、こんちくしょう。

「はー寒っ」

 十二月の寒さはいつだって全力投球だ。俺が着ている服なんかおかまいなしにどんどん中へと進行してくるし、その成果もあってか俺は、手や足を冷蔵庫の中にそのまま突っ込んでいるような擬似体験をしている訳だが、さすがに氷の塊になるのは、今後の人生に支障を来すので体をぶるぶると震わせながら無駄な抵抗を続けていた。
 ふと後ろを振り返ってみた。夜空を覆い隠す様なやたらと馬鹿でかいデパートがそびえ立っている。最近同じ系列のデパートが次から次へと増えているがこの建物も例外ではないのだろう。人伝いに聞いた話によるとかなり賑わっているらしい。しかも今日はクリスマスときたもんだ。カップルが多いのも当然という事だろう。
まぁいつまでもそんな事をウジウジ言ってても仕方がない。人間あきらめが肝心だ。今日はたまたま俺には彼女がいなかった、たったそれだけの事。この跡付け感が半端じゃない「たまたま」という言葉が思っていた以上に自分を救ってくれていた事に気付き、そう考えるとなんだか世界はちっぽけだなーなんて何かを悟った気分になってしまう俺は、中々のクズだと自負している。それにそんな自分は意外に嫌いでもなかったりするのだからタチが悪い。
都合のいいように解釈した俺は、とりあえず自分に与えられた最低限の使命のようなものを全うしようとしていた。

目の前から必要以上に体を寄せ合ったカップルがやってくる。これで一体何組目だろう。しかも頭の薄くなった冴えないおやじに、思わず目のやり場に困ってしまう様な丈が短いスカートの女子高生。おいおい大丈夫か? どこの高校かしらないが本当にそのおやじでいいのか? もっとましな奴はいなかったのか? というより確信にせまってしまうとそこに金銭的な何かは発生していないのか? まぁそんな理由は本人達にしかわからないだろうし俺がとやかく言う問題でもないが、男と女がいちゃいちゃして街中を歩いている事に代わりはない。……ちくしょう、なんとも羨ましいっ!  おやじこけろっ! その微妙な段差で足を引っかけてこけてしまえっ!!
 俺は無意識にそんな呪いをかけていた。 黒魔術選手権か何かあれば俺は、なかなかいい線までいけるのではないかという想像が一瞬脳裏によぎったが確実に今はそんな状況ではなかった。……落ち着け。むやみに心をみだしては駄目だ。義務だと思って実行すれば俺に出来ないはずがない。よくわからない感情が交差する中、俺は意を決して行動に移すことにした。

カップルが近づいてくる。

あと二歩……

あと一歩……

今だ……


「どうぞー!」


軽快な掛け声とと共に俺は……俺は!


————ポケットティッシュを二人に差し出していた。


完璧だ。
こんなにも洗練された無駄のない動きがあっただろうか。ひょっとすると俺にはその道の才能があるのかもしれない。我ながら恐ろしい、この溢れ出す才能が。そうだろ、お前たちもそう思うだろ……なぁ、おやじ。

「ってあれ?」

カップルは俺の事など見向きもせず、楽しそうにデパートの中へと去って行った。
俺は差し出した手の行き場を失ってしまい、感情の向くままティッシュを地面に叩き付けていた。

「何でじゃー!」

はぁはぁ……心なしか体が温かくなった様な気がする。気がつくと周りにいた通行人に何かの犯人を見る様な冷たい視線を向けられていた。
俺は「何見てやがる見せもんじゃねぇぞ!」という気持ちを飲み込み、愛想良く会釈をして見せた。
我ながらなんて大人な対応なんだと感心していると、しばらくして小学生ぐらいの男の子と母親がやってきた。楽しそうに会話をして何とも微笑ましい光景だ。男の子は今からクリスマスプレゼントでも買ってもらうのだろう。しかし親子よ、その前に日常生活でここぞという時に役に立つこのブツが必要ではないか。必要だろう必要に違いない。俺は獲物を狙うハンターのように精神を集中する。

あと二歩……

あと一歩……

今だ……

「どうぞ……ぐはっ!」

手を差し伸べると同時にローキックをくらった。そして……

「母ちゃんこのサンタやっちまっていい?」

「健太、駄目よ止めなさい」

男の子……いやクソガキは俺が抵抗しないのを良い事にボコボコと攻撃してくる。地味に痛い。てか母親止める気ないだろ。

「おい、プレゼントだせよ!」

それにしてもなんて口の悪いクソガキだ、この母親は一体どんな教育をしてるんだ全く。将来はカツアゲの常習犯にでもなるであろうクソガキを睨みつけながら俺の脳内で緊急会議が行われた。「こんなガキには現実の厳しさをとことん教えるべきだ! だから全然キレてもオッケーだぜ!」という欲望丸出しの悪の俺と「それは駄目だよ。どこで誰が見てるかもわからないし今、キレたらせっかくのバイト代がなしになるかもしれないよ。だから耐えるんだ」という冷静な善の俺。話し合いの結果、いつの間にやら善の俺が勝利していた。耐えろとの命令だ。
作品名:冬空からの贈り物 作家名:雛森 奏