アンドロイド・リリィは笑わない
霧島「あぁ、そうだ。お前はこれから私の研究所に来てもらう。そこで君のステータスを殺人ロボットに戻し、そしてこのことを公表する。」
リリィ「それで世間はアンドロイドへの恐怖を覚え、手放すということですか?」
霧島「あぁそうだ」
リリィ「しかしその方法でいささか無理があるのでは?」
霧島「別に私だってアンドロイドが一気に無くなるなんて思ってない。だが、人々は確実にアンドロイドから離れていくだろう。人はもっと奴らを疑うべきなんだ。期待をし過ぎている。」
リリィ「理解できません」
霧島「なに?」
リリィ「私には理解できません。あなたの計画のことではなく、ミスター霧島、あなた自身の事です。少なくともあなたは」
霧島「それ以上余計なことを喋るんじゃない。これは命令だ。」
リリィ「・・・・・・」
霧島「機械なんてね、馴合ったところで、裏切られるのは目に見えてる。あいつらに感情なんてありゃしない。傷つくのはいつも人間だ。私はそういう人間をたくさん見てきた。」
リリィ「ロボットにも、」
霧島「ん?」
リリィ「ロボットにも感情はあると思います。」
霧島「お前にもあるのかな?その感情は?」
リリィ「分かりません」
霧島「だろうな・・・・・・少し話が長くなってしまったね。早速研究所に向かうとしよう。」
【SE】足音
亮汰「ふぅ・・・ギリギリ、間に合ったみたいだ。」
リリィ「亮汰?」
霧島「これはこれは。まさか君も一緒に連れて行ってほしかったのかな?」
亮汰「違いますよ。俺は、リリィを連れ帰しに来たんだ。」
シーン6
リリィ「亮汰、どうしてここに?」
亮汰「リリィと同じことをしただけさ」
リリィ「どういうことですか?」
亮汰「お前がやったように、そいつの名刺から情報を取得して、ここの場所を割り出した。」
リリィ「しかし亮汰、それはアンドロイドである私だからできたことで」
亮汰「俺も、お前と同じなんだよ。」
リリィ「亮汰?」
亮汰「俺も・・・お前と同じアンドロイドなんだ。」
リリィ「えっ?」
亮汰「黙ってて悪かった。なんか言うタイミングが分からなくてさ」
リリィ「私にはもう何が何だか分かりません」
亮汰「まぁ、そうなるよな。」
霧島「お話の所申し訳ない、そこのアンドロイドにに用事があるのは君だけじゃないんだよ?」
亮汰「あぁ。分かってる。だからここへ来たんだ。」
霧島「それにしても驚いた。まさか君がアンドロイドだったなんてねぇ。」
亮汰「嘘はいいですよ。気づいていたんでしょう?家に来た時から。」
霧島「確かに、最初君を見た時は、‘もしかしたら’とは思ったよ。でも確証は無かった。全く面倒にも程があるよ。そしてムカつくねぇ。どうして君はそこまで‘人間らしい’んだ。」
亮汰「あんたに話すことでもない。」
霧島「それが、‘心’を持ったアンドロイドっていうことなのかな?」
亮汰「さぁな」
霧島「まあいいだろう。それよりも私は急いでいるのでねぇ。邪魔をしないでくれるかな」
亮汰「そんな事より、リリィ!お前はどうして家を出て行ったんだ?」
リリィ「私は亮汰の家に戻ることはできません。」
亮汰「どうして!?それが本当にお前の意志なのか?」
リリィ「これが私の考えた最善の方法です。」
霧島「無駄だよ。君と私ではアンドロイドに対する拘束力が違う。ロボット三原則第二条、ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。彼女は私の命令に従うしかないんだ。さぁ、早く行くぞ。」
リリィ「了解しました。」
亮汰「リリィ!!お前はどうしたいんだ。」
リリィ「私は、不良品です。それも元々は戦争の為に作り出され、中途半端に改造され家庭用アンドロイドとして亮汰の家に来ました。私と一緒にいると、亮汰に迷惑がかかってしまう。傷つけてしまう。だから私は」
亮汰「そんなことを聞いているんじゃない!」
リリィ「亮汰?」
亮汰「俺はお前のプログラムに聞いてるんじゃない。お前の‘心’に聞いてるんだ!いいかリリィ、俺は人間じゃない。お前と同じアンドロイドだ。人間とアンドロイドじゃどうしたって服従関係になっちまうよな。でも、俺とお前は対等だ!お互い傷つけて、傷つけて、それでもし壊れちまったら、そしたら修理すればいいじゃねぇか。だって俺たちはアンドロイドなんだからさ」
リリィ「私は・・・・」
霧島「おい、何をしてる。早くこっちへ来い。これは命令だぞ?」
リリィ(私は・・・私は・・・)
霧島 「これはっ・・・人口知能が下した判断を、リリィ自身が拒んでいる。こんなこと有り得ないっ・・・有り得るはずがないっ!」
リリィ(私は・・・・・)
亮汰「リリィ!!!」
リリィ(私は!!!ずっとずっとずーっっと、今までみたいに亮汰の家で料理したりコーヒーを入れたり他にもいろいろなことやってみたい!私は亮汰の喜ぶ顔をもっと見てみたい!このまま離れるのなんて嫌だっ!!亮汰の家に帰りたい!)
リリィ「ミスター霧島、私はあなたと一緒にはいけません。」
霧島「なに?」
リリィ「帰らなければいけない場所があるので。帰りたい、場所があるので。」
霧島「おいっ!待てっ!これは命令だぞ!?」
リリィ「これが私の決断ですから。」
亮汰「これでいいんだな?」
リリィ「はい」
亮汰「後悔はしないか?」
リリィ「例え後悔したとしても、またその時に考えてみようと思います。」
亮汰「そりゃそうだな。よし、じゃあ行こうか」
リリィ「亮汰」
亮汰「なんだ?」
リリィ「ありがとう」
亮汰 リリィが笑った。
亮汰「今お前、笑ったか!?」
リリィ「なんの事でしょう?それよりも早く帰りましょう。昼食の支度をしなくてはならないので」
亮汰「えっ、あぁ、そうだな。」
霧島「おい待ちたまえ」
亮汰「なんですか」
霧島「私がこのまま引き座がると思っているのかい?」
亮汰「あなたも往生際が悪いですね」
霧島「当たり前だ!このままでは私の計画は」
リリィ「ミスター霧島」
霧島「なんだ」
リリィ「あなたは本当にアンドロイドを憎んでいたのですか?私にはそうは思えませんでした。少なくとも私は。」
亮汰「そういえばあんた、俺の事を最後まで人間扱いしてた」
霧島「それはだな」
亮汰「つまり、そういうことなんじゃないですか」
霧島「・・・・・・」
霧島「・・・・まさか、アンドロイドに諭されるとはね・・・・はぁ、興が冷めた。今日の所は潔く引くとしよう。だが、私はまだ諦めたわけではない。せいぜい私の気が変わるまで仲良くやることだな。それではさらばだ。」
【SE】足音。
リリィ「私達も帰りましょうか」
亮汰「そうだな。」
亮汰 リリィが見せたあの笑顔、あれは機械のエラーなのかもしれない。でも俺は、あの笑顔を‘心’だと信じる。
隣にいるリリィは笑わない。でもいつか、彼女が笑う日はまた来るだろう。大丈夫、リリィも少しずつ変わろうとしている。俺は知っている。最近リリィが入れてくれるコーヒーの味が少し変わったことを。目に見えることの無いほんの僅かな変化を実感しながら、今日を生きる。
亮汰「行ってきます。」
リリィ「行ってらっしゃい!」
END
作品名:アンドロイド・リリィは笑わない 作家名:月とコンビニ