アンドロイド・リリィは笑わない
霧島「アンドロイドっていうのはさ、人間が何かを命令するために造り出したモノだろ?だとしたらアンドロイドだって命令されることこそが、自分の存在意義。それに反するなんて人間様に対する冒涜だ。そうは思わないかい?」
亮汰「何が言いたい」
霧島「特に何も・・・強いて言うなら」
亮汰「強いて言うなら」
霧島「そこのアンドロイドは人を殺すために造られたってことだ」
リリィ「えっ・・・・」
【SE】コップが割れる音
リリィ「すいません・・・すぐに、片づけます」
亮汰「・・・・・あなた、政府の人間か何かか?」
霧島「あっ、やはり君も気づいていたか。アレが何物なのかを」
亮汰「あぁ」
亮汰 製造年を知らされた時に大体察しはついていた。今から約三十年前、事実上は参戦しなかったものの、日本は戦争の他国援助としてアンドロイドの導入を視野に入れた開発をしていた。結局はその戦争も終結し、アンドロイドは導入されずに、多くが家庭用ロボットとして転用されていった。
霧島「当時のアンドロイドは、ほとんどが解体されてしまった。しかし僅かだが解体されずにそのまま家庭用アンドロイドとして残存している個体もあると聞いたのでね」
亮汰「あんた、一体何を考えてる。」
霧島「いやいや、別に何かを企んでいるってわけじゃないさ。私は君を心配しているんだよ?身近に元殺人ロボットがいては不安で夜も眠れないだろ?」
亮汰「それで、あんたはリリィを回収しに来たっていうのか。仮にあんたに引き渡したら、リリィはどうなるんだ?」
霧島「どうなるも何も、安全な家庭用アンドロイドになるだけだよ」
亮汰「そうですか。忠告ありがとうございます。でも俺はリリィをあなたに引き渡すつもりはありませんから。」
霧島「大人の忠告は聞いておいた方がいいと思うけどねー。それに、君のアンドロイドはかなりダメージが大きいようだけど。」
リリィ「亮汰、私は人を・・・・」
亮汰「大丈夫だ!お前は何もしていないし、これからもそんなことはない。」
霧島「まぁ、気が変わったらいつでも連絡してくれ。名刺は置いておくからさ。」
【SE】足音・ドアを開ける音
霧島「いい加減さ、人間ごっこは、よしなよ。」
【SE】ドアが閉まる音。
亮汰 そして翌朝、リリィは俺の前から姿を消した。
シーン4
【SE】携帯電話
店長「おぉ、亮汰か!」
亮汰「なんっすか、朝っぱらから」
店長「昨日、霧島っていう男がそっちに来なかったか?」
亮汰「来ましたよ。」
店長「くっそ、やっぱりか・・・いやな、昨日そいつが俺のところにも来てよ、お前が連れて行ったリリィを探してるらしくて」
亮汰「リリィなら、今朝出て行きましたよ。」
店長「はぁ!?」
亮汰「だから、朝起きたらいなくなってたんですよ。きっと霧島ってやつのところに行ったんじゃないですか。昨日あいつに、自分が殺人ロボットってこと告げられて相当ショック大きかったんでしょうね」
店長「いなくなったって、お前、ちゃんと探したのか?」
亮汰「探してないです。」
店長「なんで探しにいかねぇーんだよ!」
亮汰「俺の勝手だろっ!!あいつが自分の意志で出て行ったんだ。俺には関係ない。」
店長「関係ないって」
亮汰「霧島が帰った後もいろいろとリリィに声をかけたけど、返ってくる言葉は無かった。」
店長「お前、本当にそれでいいのか?」
亮汰「いいわけないだろっ、でも・・・」
店長「でも、なんだよ」
亮汰「俺はリリィに命令しちゃったんっすよ。自分の意志で行動しろって。あいつがここに居たくないと思ったなら、俺にそれを否定する権利はない。」
店長「はぁ・・・・お前は何も分かってねぇのな」
亮汰「何がですか?」
店長「女心ってのはそう簡単なものじゃねぇよ、それは人間もロボットも同じことだ。それに、一番問題なのはお前だバカ!」
亮汰「俺?」
店長「勝手に命令しといて勝手に落ち込んで。居なくなった原因が知りたかったら本人探し出して直接聞き出すぐらいの努力しやがれ!それでも納得がいかなかったら自分の意見を押し付けろ。多少強引でも構わねぇさ。落ち込むのはそれからだ」
亮汰「店長」
店長「お前が救われたときみたいに、今度はお前が救ってやれよ。それはお前にしかできねぇ仕事だ。」
亮汰「はぁ~ww本当、店長は言うことだけはカッコいいっすねぇー。マジ敵わないっすわ。」
店長「俺は言うことしかできねぇよ。そんでお前は、何か言うよりもまずは行動してこい!」
亮汰「了解っすっ!!ありがとうございました!」
店長「おう、行って来い!」
亮汰「それじゃあちょっくら、家出した家族を、連れ戻してきます。」
シーン5
リリィ 私は、リリィ。人工知能を植え付けられたアンドロイドです。二十年間という間、家庭用アンドロイドとして活動してきました。何度も捨てられ、何度もマスターのために尽くして、そして何度も捨てられました。辛くなかったと言えば嘘になりますね。これを感情と言っていいのかは分かりません。人工知能によって構築された私の思考は、全てがプログラムなのでしょう。それでも私はこの二十年間たくさんのものを見て、聞いて、考えて、思ってきました。しかし、三原則によって縛られ、アンドロイドとして生まれた私はそれを口にすることができません。そんな中、亮汰は私に命令に従う必要はないと言ってくれた。正直驚きました。最初は何をしたらいいのか分からず固まってしまいました。それでも少しずつ、少しずつですが、失敗して、自分の意志で動けるようになりました。それと同時に、彼に出来るだけ喜んでほしいと思うようになった。これが‘心’なのかプログラムなのか分かりませんが、それで十分でした。でも、やはり欲張ってはダメみたいですね。霧島という人から私は殺人ロボットだったと告げられた。これはもう知らなかったでは済まされない。その事実は変わらないのですから。それに一番の問題は、亮汰を危険な目に合わせるわけにはいかない。私が決断した方法は1つ。この場所から離れよう。霧島という人ならこの私をきっと、この殺人ロボットを何とかしてくれるだろう。だから私は、亮汰に何も言わず、家を出ることを決めました。
【SE】足音
霧島「来てくれると思っていたよ。さては命令されたのかい?」
リリィ「いいえ。自らの意志でココへ来ました。」
霧島「だろうな。私がそう仕向けたのだからそうでなくては困る。でもね、一つ教えといてやる」
リリィ「なんでしょう」
霧島「お前がここに来たのは、お前の意志でもなんでもない。人工知能が生んだ産物だ。」
リリィ「分かっています。私はアンドロイドですから。」
霧島「ふんっ、」
リリィ「ミスター霧島、質問してもよろしいですか?」
霧島「ロボットが質問か・・・まぁ答える義理もないが、いいだろう。ほら、質問してみろ」
リリィ「私はこれからどうなるのですか?」
霧島「ほう、興味があるのかな?」
リリィ「はい。危険な私を引き取って一体何をするのか非常に興味があります。」
霧島「私はね、アンドロイドを世の中から消し去りたいんだよ。」
リリィ「それは果たして、可能なことなのでしょうか?」
霧島「可能だよ。君がいればね。」
リリィ「私が?」
作品名:アンドロイド・リリィは笑わない 作家名:月とコンビニ