おかしな博士
そして男と博士は樹の下に機械がすっぽりと収まる穴を掘った。穴の深さは機会が見えないくらいだったが、アンテナだけは土の中から生えたように飛び出ていた。
「これでいい。思い残すことはもうない。私は人生で一番の大仕事を成し遂げたのだ。君はそれを見届けてくれた。どうもありがとう。」
「礼には及びませんよ。しかし、これは一体全体どんな意味があるんです。それだけは知りたい。」
「いずれわかるさ。この機械は人類にとっては小さな一歩だ。しかし地球にとってはとても大きな一歩になるはずだよ。」
男は結局何もわからずに家に帰った。そして博士の行っていたことを何度か考えてみたが全く、その陰萎を掴むことはできなかった。
そして数日後、母からの一言で博士がこの世を去ったことを男は知る。
博士の家は博士の遺言の通り取り壊されて自然公園の一部となり、その機械のことを知っているのは男だけとなってしまった。
博士の遺体は自然公園の杉の樹の下に埋葬された。
男はそれから何度か自然公園の杉を訪れては博士の墓参りをした。依然としてその機会はアンテナだけを土の中から出して無言で佇んでいた。
博士の死から数年が経った。
男は何度か機械掘り返そうかとも考えて、ついに実行してみたが杉の根が絡まりもはや取り出すことは不可能となっていた。
それから男は大学を出て社会に出た。物流業の大手に就職したが時代の風潮から対外交関係が悪化。リストラされた。
外交の悪化は男のリストラに止まらなかった。発展途上国が同盟を組んで近隣先進国に宣戦布告をし、その火の粉を被る形で戦争が起きた。
第三次世界大戦。それはあっという間に終息を迎える。かの有名な物理学者は第四次世界大戦に使用される武器は石と棍棒だ。と言ったが、それは冗談ではない。
第三次世界大戦はわずか数日で今まで人類が数千年で築き上げた歴史や文明を破壊した。
9たった一発の核で百を越える種が全滅した。そんな兵器を数百、数千と使用したのだ。
もはや地球上に生命の痕跡はなかった。
博士の自然公園に核の火が降り注いだのも言うまでもない。一瞬で自然公園の木々は蒸発した。
数時間後にはあたり一帯生き物が住むことなど到底できないレベルの放射線に包まれた。
その時音がなった。
ビー ビー ビー
博士の墓のとなり。男と博士で埋めた機械からだ。
そしてまた静寂が訪れた。
どれくらいの時が経っただろう。もはや地上に動く生物の影はなくなり、ただ荒廃した建造物の跡が残っているだけ。人類の威厳を示すものはほぼ杯となって消えた。
しかし変化があった。何百年という時の中で雨が降り、大気中の放射性物質は減少していた。それはかろうじて生命が生きられるほどに。
また音がなった。
ビー ビー ビー ビー ビー
博士の自然公園があった場所からだ。
博士の作った機械は地中で核の炎に耐え、数百年という長い年月眠っていたのだ。このたった一度の仕事のために。
ビー ビー ビー ボカン
機会が二つに割れ、中から十個ほどの小さな種が出てきた。
すべて形やサイズはバラバラであったがまるで昨日作られたかのように新鮮だ。
これが博士の発明であり地球へのせめてもの罪滅ぼしであった。
種は気が遠くなるほどの時間をかけ地球を再び緑に返すであろう。
人が生まれるよりも遥か昔。地球の原子の姿を取り戻す様に。