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おかしな博士

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ある町におかしな博士が住んでいた。
博士は毎日決まって同じ喫茶店の同じ場所で本を読んでいた。

話す相手がいるわけではないが不思議と嫌われてもいない。
なんの博士なのか、何を作っているのか誰も知らないが、曲がった背といつもの白衣姿、おまけに瓶底のようなメガネをいつも身につけている。店長がそう呼ぶように人々からはずっと博士と呼ばれていた。

喫茶店には同じく常連の若い男がいる。
彼は大学が終わった後によく喫茶店で雑誌を読んでいた。
当然博士の存在も知っていたが別段話しかけるようなこともなかったので顔や姿は知っている程度の仲であった。


さて、ある日、男がいつものように大学での講義を終え、喫茶店で一休みするかといつもの店に入ってみると、おかしい。何か違和感がある。

店の右奥のテーブル、そう、博士の定位置にその姿が見当たらないのだ。

「今日は博士はいないんですね。」

「そうなんだよ、珍しいこともあるもんだ。」

どうやら店長も不思議に思っているらしい。
その日はたまたまだろうと別段詮索もせず男は喫茶店でいつものように時間を使い帰路に着いた。
そこから数日間男は喫茶店に通ったが博士は一向に現れなかった。

さすがにおかしいと思った男は店長に聞いてみることにした。

「ここ何日化博士の姿をすっかり見なくなってしまいましたね。」

「そうなんだよ、僕も博士の姿がないとなんか仕事にハリが出なくなってしまっているね。」

「一体どうしたんでしょうか、病気でもしていないといいんですが。」

「それなんだが、実は数日前、博士が来なくなる二日ほど前だったかな。珍しく博士が口を開いたと思ったら、私は今から世界で一番大切な仕事に取り掛かる。これを成し遂げることが生まれてきた理由だ。と言っていてね。私は学者ではないからその時は頑張ってくださいとしかいえなかったし、まさか本当にそうだとは思わなかったから冗談半分にきいていたが、、、」

「なるほど、何かの研究に取り掛かっているからお店に来なくなったのではないかということですね。」

「そうなんだよ。」

男は興味があった、博士が生まれてきた理由だというほど重大な発明とはなんなのか。

気になり始めると人というのは不思議なもので、博士は一体どんな人物なのだろうか、一体どんな人生を歩んだのだろうか。など1から10まで知りたくなってくるものだ。

男は好奇心に負け店長に聞いてみた。

「博士の家はどこにあるか知っていますか。」

「有名さ、町のはずれの自然公園の横に一軒だけぽつんとある古びた洋風の建物だよ。もしかして、会いに行くのかい。」

「なんだか興味が出てきてしまいまして。元気かどうかも気になりますし。」

「そうかい。もし博士にあったら私が寂しがっていると伝えてくれ。」

「わかりました。」

男はその日は家に帰り、翌日講義が午前中で終わったので博士の家を訪ねてみることにした。

店長に言われた通りの場所だとすると大体この辺だろう。
町のはずれにある自然公園の横に、まるで現代から隔絶されているかのように古い洋風建築の建物があった。

しかし玄関には以外と近代を思わせる向こうからカメラを覗けるタイプのインターホンが設置されていた。

男は一瞬躊躇したが思い切ってそのインターホンを押した。

ビー

という甲高い音、一足遅れてしわがれた声がスピーカーから漏れた。

「おお、君はよく店に入る青年じゃないか。こうやって話すのは初めてかもしれないね。」

「どうもこんにちは、実は最近お店であなたの姿を見ないと思い、店長も心配していたのでお宅にお邪魔してみようかと思って。」

男は本音である博士の仕事のことをストレートで聞くのを避けた。

「そうだったね、最近仕事が忙しくて、まあ立ち話もなんだ。せっかく来たんだし上がっていってくれ。」

博士がそういうと意外や意外、洋風の家のドアがひとりでに開いた。見た目は古びているが中身はオートメーション化されている。

「お邪魔します。」

家の中は殺風景というより必要最低限という感じの家具や装飾品が置かれていた。

博士一人で住むには十分な設備であり十分な贅沢なのだろう。

家の奥から足音が聞こえ、いつも喫茶店でみる初老の男がひょっこりと現れた。

「やあやあ、君はお店でみるよりも背が高いんだね。」

「そうですかね、よく高いとは言われますが。」

「そうだろう。私の三つ後ろの席でよく雑誌を読んでいるのは知っていたよ。しかし若者と話す勇気ってのがあまりなくてな。私は人よりも紙やペン、実験機械と向き合っている時間の方が長かったもんで。」
博士は男を手招きでリビングの椅子に座らせ、熱いコーヒーを一杯入れてくれた。

「そういえばなんとお呼びしたらよろしいでしょう。」

「君の呼びたいようにで構わんよ。あの店長は博士と呼んでくれていたようだ。」

「では博士と呼ばせていただきますね。博士は一体何の研究をなさっているんですか。」

「なるほど、私の経歴か。あまり専門的に話すのは好きではないから大まかな説明になってしまうが、私は大の自然崇拝者でね。今までの人生の大半はいかに自然環境の改善をするか、というテーマで研究をしてきたわけだ。」

「なるほど。自然環境ですか。」

「そうだ。実は家の横の自然公園も私の研究の成果の一つでね。私が個人的に管理していたものを町に自由に憩いの場として使ってもらうことにしたのさ。」

「それはやりがいがありそうですね。」

そこで博士は思い出したかのように男の目を見つめて話し出した。

「そうだ。ついさっき私の人生で最大の発明が完成したんだ。しかし私の老体ではそれを運ぶのがしんどくていけない。一世一代の大仕事の手伝いをしてくれないかな。」

男は好奇心に打ち勝てずすぐさま了解した。そして博士の後をついて地下にあるという研究室に入っていった。

部屋の中は薬品の匂いがプンと鼻をつくいかにも研究室といったイメージの場所で、部屋の隅には大小様々な薬品が置かれ、中央には実験機器と共にバスケットボール大位の黒い金属製の球体が置かれていた。

「これが私の人生で最大の発明だよ。」

それには取っ手や突起といったものが一切なく、ほぼ完全な球に近い形で上から一本だけアンテナが出ていた。

「これは一体何をする機械なんでしょうか。見た目だと人工衛星かなにかですか。」

博士はメガネをかけ直し、男の方を向いた。その顔は意外なことに悲しそうだった。

「これは我々がこの星にしてきた過ちを償う機械なんだよ。これ以上詳しいことは言えないが、機械こそ、人が真に作るべきものだったと確信している。このボディーの合金と中の特殊な植物を開発するのに私の人生の財産をすべて投げ打ったと言ってもいい。」

博士が続けて言う。

「さて、この機会を持って隣の自然公園に行きたい。この台車を使っていいから運び出すのを手伝ってくれ。」

男は言われるままにその不思議な機械を運び出し、隣の自然公園に生えている大きな杉の樹の下までやってきた。

「ここに穴を掘ってその機械を埋めたいんだ。そこの納屋にあるスコップを使って穴を掘ろう。」
作品名:おかしな博士 作家名:DONZO