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人生はカーニバル

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「歳の差は少しも気にならない。それに離れているのは、結構好きかも」
 どこまで真面目なのか分からず、Xは思わず口を噤んでしまった。
 親子以上の年が離れているというのに、そのギャップを少しも感じさせない。話が分かるし、何よりも酒を飲むと危険なほど色っぽくなる。どうやらお酒でたがが外れる癖があるようだ。
「恋人はいるのか?」と聞くと、
「いない」と答えた。
「そうか」とXは呟いた。
「それで終わりなの?」と彼女の顔が寄せた。
 突然、スミレは足を絡ませ、さらに足をXの脚の上に乗せた。その重さに、Xは思わず性的な心地よさを感じてしまった。Xは慌ててスミレを見る。が、何でもないような顔している。まるで手玉に取られてしまったような気分だったが、Xはそれも悪くはないと思っている。 後、一歩で一線を越えるところだった。だが、上司と部下という関係が最後まで頭から離れなかった。それが、かろうじて理性を働かせた。
「もう帰ろう」とXは言った。
「もう終わりなの」とスミレは残念そうに言う。
「まだ、誘ってくださいね」と耳元で、その吐息が分かるように呟いた。

 数週間後、客先から帰る途中、バス停での会話である。
「大学時代、何を勉強してきた」
「熱化学です」
「どうして、専攻した?」
「それが一番楽だと聞いたから」と笑った。
「じゃ、エンタルピーとエントロピーの違いを説明できるか?」
彼女は笑いながら首をふった。「前にも言ったけど、覚えるのは得意だけど、直ぐに忘れてしまう」
「付け焼刃の知識ということか。エンタルピーは仕事のできる量を示しエントロピーは不均一さを表すものだ」

 彼女が部下なって三か月が過ぎ、プロジェクトも終わろうとしていた。
「どうだ、仕事は面白いか?」
「今までいろんなプロジェクトについたけど、その中身が良く分からなかったから、ちっとも面白くなかったけど、今回、初めて中身が分かった。そのせいで、いろんなことを覚えられ、興味も持てるようになり面白いと思った。これもXさんのおかげです」と微笑んだ。

 桜が咲こうかというときに宴会があった。
 Xの隣にスミレが座った。
 宴会は盛り上がった。
 いつの間にか、Xとスミレは二人で盛り上がっていたが、周りの誰も注目しなかった。
スミレは日本酒が好きで、その中でも特定の銘柄を好んで飲んでいた。酔いが回った頃、「一緒に飲みに行く?」
「ただならOKです」
なるほどと感心してしまった。
「でも、いいかい、飲んだことは誰にも言っちゃいけない。起こったことはみんな忘れる。覚えていても言わない」
「そんなの当たり前じゃないですか」と真顔で答えた。
 一次会が終わった。彼女に「じゃ行くぞ」と耳打ちして、一緒に宴会場を出た。

 スナックに行く途中、
「お前のアパート、この辺だろ?」と聞いたら、
「危ない。教えない。教えたら、何気ない顔で部屋の前に立っていそうだから」と笑った。
 そんなふうに見えるかな、とXは思いながら笑った。

 スナックに入った。
 山口百恵、テレサテン、高橋真理子と……一緒に歌った。二人とも、まるでカーニバルのようにはしゃいだ。
 ふと見ると、彼女の顔が近くにあった。その唇に目が釘付けになった。すると、近くで見ていたホステスが、「だめですよ。近すぎますよ、Xさん。部下でしょ?」と一瞬顔を強張らせ睨んだ。
 Xは思わず照れ笑いした。スミレは何も気づかないかのように歌っている。
 彼女は誰とも仲良くなれるようだった。酒を進むつれ、次々と周りのオジサンたちと仲良くなっていた。
 清算した後、スナックを出た。
「今日は楽しかったか?」
「とても」
「それは良かった」
「また来るか?」
「大歓迎です」とスミレはXと腕を組んだ。
 二人並んで歩いた。
 大通りについた。
「ここから独りで帰れます」
「じゃ」と言ってX氏は別れた。
 これから、どんな出来事が二人に待っているのかとXは想像してみた。何があるにせよ。所詮、カーニバルだ。いつかは覚める夢。だが、もう少し浮かれてもいいと思った。どうせ一度きりの人生なのだから。
作品名:人生はカーニバル 作家名:楡井英夫