星の帝国
拝地教が説く罪とは、人類が十五世紀半前に起こした大戦を意味する。あまたの魔術師、魔力を利用した数多くの兵器が投入されたその大戦は、すべての大地を荒野と変えた。それでも生きのこった人間は命をつなぎ、長い時間をかけて文明をよみがえらせた。だが蘇生しなかったもののひとつ――それが、枯れた緑である。
神の許しは不公平だった。時間の経過とともに多くの緑がよみがえった国と、死んだ大地ばかりが広がる国。その不公平そのものが罰なのだと、拝地教は説く。もはや懸命に歴史をつくりつづけることしか人には許されていないのだ、と。
イーストランド帝国が勢力を伸ばす荒野の島・メリル島は資源に恵まれた幸運な地域だった。大量に産出する石油と鉄鉱石が工業製品を生み、火山が生みだす火山灰はコンクリートの素材となる。
全盛を極めた蒸気機関に対して新技術のディーゼル機関が登場しはじめた昨今、石油を欲しがる国が増え、その求める量も増加の一途をたどっている。比較的ひよくな大地を持つ国は産油国でないことが多く、帝国が売る石油と彼らが売る野菜を含む木材の貿易は実に利害が一致していた。
石油と緑、そのどちらにも恵まれなかった国もある。産油国にしても緑ある国にしても、「いつこの資源は失われてしまうのか」――その恐れから逃げることはできない。恒常的な不安は人間を追いつめ、そこから逃れるために他者を追いつめる者があとを絶たない。
人は戦争という外交手段をついに手ばなせなかったのだ。星の安寧を祈る拝地教を国教としながら、メリル島東部のイーストランド帝国は島西部・リドル王国を併合した。
帝国軍はソドモーラ戦に三日と戦車五両、歩兵と魔術師兵を合わせて四二〇人の怪我人、八四人の命を必要とした。
一方、二五二〇人のリドル軍は全滅に等しかった。政治と軍事を放棄し、贅沢三昧だった王国の末路である。金とコネのつなぐ出世の道筋を張りめぐらせた貴族社会が、王国を滅びに導いたのだ。
王国軍の屍はいたるところで積みあげられていたが、国王と王妃、そして王女と王子の消息は、このときまだ明らかになっていない。