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瀬間野信平
瀬間野信平
novelistID. 45975
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ちょいと拝借~とある鬼の場合~

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○鬼、之、退、治●



「……鬼?鬼ってあの鬼ですか?赤鬼とか、青鬼とか。」

例えば桃太郎、例えば一寸法師。
赤鬼は昔話に欠かせない。
その鬼かと思い答えたのだが京応さんがニンマリ笑った所を見ると外れらしい、本当に僕をからかうときは笑顔になる人だ。

「半分辺りで半分外れ、私の半分は優しさだから及第点をあげよう。」
「優しさの割には圧倒的に母性が足りません。」
「何か申したかな?」
「まったく何も。」
「よろしい、話を続けよう。」

鬼のような笑顔で、そんな言い回しはないがとにかく鬼のような笑顔で京応さんはまた説明を始めた。

「鬼とはもともと広い範囲で『お化け』を表す漢字のこと。この言葉が日本に入ってきた際お化けという言葉は妖と結び付いて妖鬼、つまり妖怪という概念になったのが一つ。もう一つ、鬼は意味を持った。疫病ね。」
「疫病?」
「そう、風邪も引かない東君には分からないかもしれないけど昔の人々は病に弱かった。」
「すいません、風邪では無いですが今現在形で頭が痛いです。」
「先ほど私の優しさあげたんだけど?」
「薬効成分のあるもう半分のバファリンをください。」
「話が逸れた、もう少し説明を噛み砕いて続けよう。」

お願いします、頭が痛くならない程度に。
というより今の頭痛への対処要求は無視なのか、鬼め。

「当時人々の死因は大きく二つ、戦乱に疫病。あまねく人はいつでも死を恐れるもの。無論死後の世界を表すお化け妖怪と並んで、病も同様に恐れられた訳ね。」
「……となると桃太郎も少し意味合いが変わってきますね。」
「お、鋭いね。君にさっき及第点を上げたのはそういう理由もあるよ。『桃太郎』でも『泣いた赤鬼』でも鬼は恐れられ、隔離された。鬼は人を喰うから、という以上に寄ると病がうつるからと考える事も自然だろうね。」

節分での『鬼は外』も同じような物だ。
鬼は疫病や不幸、良くない物の代表例として迫害される立場にあった。
はじめ鬼とされたのは、熱によって体が赤く、痛みによって顔をしかめる患者だったのではないかとも言う。
その患者に『石』を投げ家や村からから追い出すという訳か。
因みに先ほどの桃太郎も、日本神話と組み合わせて、病や不幸の源泉たる黄泉醜女を鬼とし、邪を祓う桃と、黄泉との境である川の子供。
それを『桃太郎』と考える説もあるほど、病と鬼の関係は深い。
黄泉と現世が川で隔てられているというのは三途の川然り、ギリシャ神話のレテの河然り、様々な地で見られるようだ。

「病気と鬼の関係は大体分かりましたがそれが今回の強制出勤と何の関係が?」
「……因みに東君は怨念もののけと、病気とどっちが怖いかな。」
「怨念です、病気ならまだ治す方法が確立してそうですから。怨念お化けには太刀打ち出来ませんし、あと女性の怨念は馬鹿に出来ませんから。」
「最後の一言は何?取り憑けって煽りかしら?がおー!!」
「はいはいそうですそうです。」
「憑りつく島もない対応ね。」
「良くできました。」
「本当にとり憑くわよ。具体的には正月に私を置いて海外旅行の館長の代わりに。」
「それは僕どちらかと言えば被害者の側なのですが。」
「では去年私の買い置きのシュークリームをつまみ食いした怨みね。」
「除夜の鐘で時効です。」
「食べ物の恨みは末代までだからね、別にこれ求婚してる訳じゃないから喜ばないでよろしく。」
「むしろ求婚されたら青ざめます。」
「除夜の鐘ように突きまくってあげましょうか。」
「顔色も青ざめますので話を戻して下さい。」

両者ギリギリの愛想笑いだが裏の感情は隠しきれていない。
五秒ほどにらみ合い、もとい見つめあい、京応さんは細長い指をコキコキ鳴らしながらも説明に戻る。

「今回の話はそうね、東君が苦手な怨霊の方よ。怨霊というよりは幽霊みたいだけど。」
「……正直な話僕はオカルトが苦手なんですよ。あまり信じたくも聞きたくも無いです。」
「ほう、刀剣鎧の博物館に勤めてよく言うわ。」
「それを言われたらそうなんですがね。」

この博物館には京応桜掘り出しの刀剣鎧が展示されている。
刀剣鎧とは無論戦いのためにあったものだから、意識的にも無意識でも人の想いがこもりやすい。
なのでオカルト、都市伝説の類いには困らず、話題にも客足が遠退く理由にもなっている。
昔の妖刀村正はこの類いの都市伝説だろうと京応さんは言っていた、よく考えれば現代のゲームでもステータスが下がる『のろいのそうび』は大活躍だ、負の意味で。
今回京応さんが呼び出したという理由も、その類いの都市伝説、それもこの博物館にとってマイナスイメージの物が、広まっているからのようだ。

「というわけで原因をなんとかしに行きましょうか。」
「あれ、原因がなんとかなりそうなんですか?都市伝説の掲示板炎上させるとか。」
「東君って時折吹っ切れるよね。なまけ世代?」
「それを言うならゆとり世代と言うべきです。」
「オカルト怖いだなんてゆとりの弊害かしら。」
「オカルトの無い場なら例え火の中水の中、草の中土の中女子更衣室の中。」
「そんなんだから彼女が……」
「反省します。」
「どちらにせよ暗いから出来ないだろうけどね。」
「呪い返しますよ。」

再度にらみあうが二人してため息をつく。
小粋でもない会話を繰り広げても何ら得るところは無いものだ。

「という訳で、三ガ日が明け次第調査に行きます。」
「行ってらっしゃいませ。」
「東君も行くんだよ。」
「お土産よろしくお願いしますね。」
「話聞かないと市松人形買ってくるよ、髪が伸びるやつ。セットで西洋人形も。これだけあわせて398!!」
「すいませんでした心から謝罪します、押し売り系人形ホラーは勘弁してください。」
「本当に怨霊ダメみたいね。肝試しとかどうしてたの。」
「付き合いで参加はしてましたが、一回お化け役に連れの女の子を投げつけて以来呼ばれません。」
「だからどうしてそう変な所に思い切りが良いのやら。」

ホラーアレルギーなのだろうか。
冷汗が出て、体に鳥肌のような発疹が……
アレルギーなんだろうきっと、そう信じたい。
女子に良いところを見せる場でもあるお化け屋敷で、つり橋効果のつの字もなく、女子とキャストを押し付けて激走したのは我が人生の明らかなる汚点だ。

「という訳で早くその怨霊用件をお願いします。さっさと済ませて、夜にならないうちに帰らせてください。さもなくば1日共に夜を明かしてもらいます。」
「斬新な告白なのか脅しなのか分からないけど了解了解、集合場所は東京駅でよろしく。私はちょっと寄る場所があるからね。」
「場所が思ったより都会ですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫、今回は飛びっきりのネタだから。それに都市伝説に場所も含まれているみたいだから。」



「東京のデュラハン、それが今回の都市伝説ね。」


なにやら本格的な怨霊に僕の人生史上最大の悪寒が走ったのは言うまでもなかった。