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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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ローゼン・サーガ

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 神々が世界を創造し、精霊が生まれ、大空には竜が羽ばたいていたと云われる時代。
 強大な力の象徴である魔導を操る魔導士と呼ばれる人々が世界を支配していた時代。
 この物語は真世界が生まれる以前の物語である。

 地平線の見える広大な大地に広がる農地では、果樹栽培でブドウやオリーブが盛んに作られ、羊の放牧も盛んに行われていた。その豊かな大地にそびえる高い防壁に囲まれた都市国家メミス。
 壁に囲まれた都市の中心にある小高い丘の上にある神殿。この場所が城塞であり、この都市を守護する月の女神ムーミストからの信託を授かる場所である。
 数百年前から神々は人間の前に姿を現すことが少なくなっていた。
 月の女神ムーミストの守護を受けていたメミスの都でも、ムーミストの信託を授かることのできる巫女ですら三〇〇年もの間、信託を聞くことができなかった。
 この国は巫女がムーミストの神託を享けて、それを神官と呼ばれる十三人の者たちが解釈し国を動かしてきていた。しかし、三〇〇年前からは神官たちが神の言葉を捏造し、国を動かしていた。
 この世界に存在する魔導士たちは、イースと呼ばれる特別な〈血〉を持って生まれた者が神々に忠誠を誓うことにより魔導と呼ばれる術を使用することができる。
 メミスでは魔導士になるために貴族であることが絶対の条件で、それ以外の者が特別な〈血〉を持って生まれたとしても魔導士になることは決して許されなかった。
 千年以上もの昔、メミスでは女が魔導士になることを禁じていたのだが、男を偽り魔導士になったある女性が、ムーミストの宿敵であり、この国で最も恐れられていた大怪物レザービトゥルドを倒したことから、女貴族でも魔導士になることを許されるようになったのだ。
 この国の魔導士の数は一時急激に増えることになった。しかし、現在はその一〇分の一にも満たない数に減少してしまった。その要因は神官たちの間では、ムーミストの信託を享けられなくなったことと、何か関係があるのではないかという噂が囁かれるが、実際のところは原因について知る者は誰ひとりと存在していなかった。
 メミスの都に住む魔導士たちは恐怖感を胸に抱いていた。もし、このまま魔導士の数が減り続けたら、この国の情勢はどうなってしまうのか。もし、魔導士の数が減り続けていたら、魔導の力で支配してきた一般階級の人々が暴動を起こすのではないか。
 メミスの都で最も国の情勢に不安を覚えていたのは神官長を勤めるキースであった。
 キースはこの国の巫女と双子であり、この国では代々巫女は特別な事情を除き、生涯男と交わることを禁止され、男の方が子供を作り、必ず男女の双子が生まれ、巫女と神官長を代々受け継いでいた。
 まだ子供のいないキースは常に厳重な警備下に置かれ、神殿の外に出ることも余程のことがない限りは禁じられていた。そのためキースは部屋にこもることが多く、読書に明け暮れる毎日を過ごしていた。
 今年で十八歳となるキースは、これまで幾度か貴族の女性との縁談話を受けたが、全て断ってきた。その理由は読書によって影響を受けた自由恋愛に憧れを持ってしまっていたからだ。
 読書によって培われたモラルは度々キースを悩ませた。彼にとって毎日は憂鬱でしかなかった。
 この先、魔導士の数が減り、民がムーミストから神託を享けられないことを知ったら、暴動が起こるのは間違いない。だが、本当に暴動が起こった時、自分はどちらの味方につくべきか?
 キースは常々思っていることがある。彼はこの国で最も権力を持つひとりとして生まれたが、その力の行使には疑問を抱いていた。魔導を使えるということだけで人々を支配していいのかという疑問だ。
 歴代の神官長たちも読書に明け暮れる者が多くいて、キースと同じようなモラルの問題に頭を悩ませた者が数多くいた。その中でもキースの悩みは歴代の神官長に比べ深いものであった。だが、ある日キースはもっと大きな悩みを背負うことになってしまった。

 その日、キースはいつものように部屋に閉じこもり読書をしていると、窓のないはずの部屋にそよ風が吹き込んで来たのだ。
 そよ風は芳しい薔薇の香りを部屋中に振りまいた。
 キースは驚いた表情をして辺りを見回した。誰かが自分を殺しに来たのではないかと考えたのだ。
 ドアは鍵が掛かったままで開いていない。風はどこから吹き込んで来たのか?
 思わずキースは身を強張らせた。すぐ横に何者かが立っていたからだ。
 こんな行動を取るとは、暗殺者しかいないとキースは思った。
 キースはその立場から人間からも怪物からも命を狙われることがある。だが、魔導力だけなら世界一の魔導士と謳われる彼は、警護など付いていなくとも命の心配をする必要などなかった。しかし、今回は違った。
 音も気配もなく真横に近づいて来た者は只者ではない。そう思ったキースは、自分はこのまま殺されてしまうのだろうと考えた。
 キースは横に立つ人物を下から上へと一瞥した。
 丈夫そうなブーツから上は茶色いローブで身体を包み、顔は陶磁器のように白く、髪は白く腰の辺りまで垂れていたが、老人ではなく、とても美しい娘の顔だった。
 娘の顔に美しく光る深紅の瞳を見てキースは呟いた。
「人間ではないのか……」
 この世界の人間には深紅の瞳を持つ者はひとりもいなかった。つまり、いくら人間に姿かたちが似ていようと、それは人間外の存在である。
「左様ですキース様。わたくしは精霊の里にひとつ、ラルソウムから参りましたローゼンと申す者です」
「それで、私に何の用かな?」
「貴方様の力を貸していただきたいと思い参りました」
 どうやらこの娘は精霊であり、今のところは友好的な人物らしいことがわかった。しかし、キースは相手の申し出に不快の色を示した。
「私に力を借りたいとはどういうことだね?」
「貴方様が世界一の魔導士との噂をお聞きして、ぜひともわたくしと共に旅をしていただきたいのです」
「旅だと、この私がか!?」
「左様です」
「冗談じゃない、私はこの神殿ですら一度しか出たことがないのだぞ。その私が旅に出るなどできるわけがない。それに私が君と旅をする理由や動機は何ひとつもない。さあ、お引き取り願おう」
 娘はキースの言葉に耳を傾けることなく、その場から動くような気配もなかった。
「お話だけでも聞いていただきたいのですが?」
 この言葉にキースは少し悩んだが、結局は娘の話を聞くことにした。退屈しのぎにでもなると考えたのだ。
「話だけは聞こう。だが、私の気持ちは変わらず、君と旅に出ることはないだろう」
「では、お話しいたします。――この世界は崩壊の危機にあり、その事実に気が付いたラルソウムに住む我々の一族は調査団を編成し世界各地へと旅立って行きました。わたくしもそのひとりです」
「……数多の神々が創りあげたこの世界が崩壊するだと? そんなことがあり得るわけがない」