長いトンネル
ばかげた嘘。あまりにも見え透いた嘘だったので、ユキナ自身恥ずかしくなって、顔を見られないように帽子を被りなおすふりをした。
タカシはトンネルに案内した。歩きながら静かに語り始めた。
「昔、闇の中で愛し合ったんだ」
タカシはそっとユキナの顔を見た。帽子の下の顔の表情は何も変わっていないように見える。
「どうして、そんなことを言うの?」
「どうしてか……この先に行けば分かるさ」
タカシはふいに立ち止った。
「いいかい、耳をよく済ませるんだ。いろんな音が聞こえてくる。いろんな音が……。歩くときもなるべく音を立てていけない」
まるで子供を諭すような言い方であった。
二人はゆっくりと静かに歩いた。先に進むにつれて真っ暗闇になった。何も見えないと思った瞬間、小さな音が聞こえた。無意識のうちに、ユキナはタカシの腕にしがみついた。その瞬間思いがけなくキスされた。タカシは力強く抱きしめたため離れることができなかった。やがて予期しない快感がユキナを貫いた。タカシはゆっくりと体を離した。そして何事もなかったようにユキナの手を引き、出口に向かった。
明るくなって、しばらくすると出口に出た。
海が広がっている。
「トンネルを抜けた瞬間、君は僕の恋人だ」
ユキナは否定しなかった。
季節外れの海。そこには誰もいなかった。
彼は背負っていたカバンから、オカリナを取り出し演奏を始めた。サイモンとガーファンクルの“コンドルは飛んでいく”。切ない哀しみがユキナの心を満たした。音楽を聴いているうちに、ユキナはタカシが自分を深く愛していることを悟った。
演奏をしている姿が実に気高くみえた。火傷の跡がなければ意外にハンサムかもしれないとも思った。
演奏を終えたとき、ユキナはゆっくりとタカシに体を重ねた。タカシは静かに受け止めた。既に日は沈み、星が瞬こうとしていた。