ACT ARME10 謎謎謎謎
突然だが、ルインは今真っ暗闇の中にいた。
前後上下左右どこを見回してももれなく真っ暗。見えるのは自分の体だけ。
そんな状態だから自分が今立っているのか浮いているのかもわからない。でも髪や服にふわふわとした感じはしないから浮いてはいないのかもしれない。
向かってくる敵もなく、迎えに来る仲間もいない。ただただ一人空間に漂っていた。
普通ならこのあたりで人は恐怖を感じ始めるだろう。
だが、ルインは特に何も感じずに為すがままの状態だった。
だが、そんな均衡が突如崩れた。
ルインの体中の細胞という細胞が一斉に恐怖し逆立つのを感じたのだ。
敵?の姿は見えない。そもそも敵が来たくらいでルインは恐怖しない。
今自分に迫っているのはそれとは全然違う恐怖。腕を縛られた状態で黒板を引っ掻いた時になる音を延々と聞かされるような、誰もが根を上げる、しかしそれでも許されないような恐怖だ。
今度は遠くから光が見える。しかし、今までいた暗闇の中から解放される喜びはない。
その光を見ると、今度は頭が猛烈に痛くなるのだ。
解けない結び目を無理やりにでも解こうとしたとき、もし紐に痛覚があれば感じるであろうほどの痛みだ。
来るなと思えば思うほどどんどん近づいてくる。
そしてその光が眼前いっぱいに広がり、ルインの体をを包み込んだその時!!
ルインは目を覚ますのである。
「また夢か・・・」
の一言を残して。
時は数時間ほど進んで朝と昼の中間ぐらいの時間、つまりだいたい午前10時頃の話である。
今日も特に何もすることがないアコと、窓辺の椅子に座り読書にふけっているツェリライと、買い出し中にて不在のレックと、珍しく何か考え込んでいるルインがいた。
どのくらい深く考え込んでいるかというと、いつもは視線を向けられるとすぐに反応を返すのに、今はアコがルインをガン見しても全く気づかないほどだ。
そのいつもと違う様子のルインを前に、アコはまるで珍種の動物を発見したかのように恐る恐る近づいて・・・
両腕を上にあげ、手をプラプラさせながらヘロヘロと動き回るという珍妙な動きをし始めた。
しかしルインは全く気を向けない。
「うーん、すごい集中力ね・・・」
仕方がないのでアコは注がれたまま口が付けられていないコーヒーに手を伸ばした。
するとルインはその手をぺしりと叩き落とした。若干力がこもっていた気もする。
ルインはそのままカップを手に取り、若干ぬるくなったコーヒーを一口飲み、小さく溜め息をついた。
そんな様子のルインを見て、アコは床に落ちている物がゴミなのか虫なのか判別つかずに困ったときにしそうな表情を浮かべる。
「・・・本当に大丈夫?」
「ガチ心配はやめて。なんかヘコみそうになるから。」
ルイン自身今の自分に困惑しているので、とりあえず強がっておいた。
「しかし、本当に珍しいですね。あなたがそんなに深く考え事をするとは。」
本からは全く目を離さないまま、ツェリライが会話をつなぐ。
「う〜ん、そうなんだよねぇ。自分でも僕らしくないとは思うよ。たかが他人に投げかけられた意味深な台詞一つに振り回されるなんて。」
そう言うとルインは思い切り背もたれに寄りかかり、椅子に深く沈み込んだ。本当はコーヒーのおかわりをしようかと思ったが、今は面倒くさいのでやめた。
「そこまで来ると珍しいを通り越して不気味ですね。大丈夫ですか?」
「だから、ガチ心配はやめてくれと。別にどーってことないと思うよ。多分。」
返される言葉も、いつものような投げやりさ加減、もとい自信がない。
「『悪意により生み出された種が植えられ、やがてそれは芽を出し実を成す。それが再び地に落ち、如何なる花を咲かせるか、見届けさせてもらうぞ・・・』でしたっけ。あの言い方から察するに、もしかするとあの人はルインさんの過去に関わっていたのでは?」
そう尋ねるも、ルインはゆっくりとかぶりを振る。
「うんにゃ、全く記憶にございません。最も、それ以外の記憶もないから、本当に会ったことがないかは知らないけどね。」
そう、今自分たちの手元にある情報は全くと言っていいほどない。さらに言うなら、言葉の真意を考える必要性もはっきり言ってない。自分に関係ないことであればそれまでだし、関係あることであればいずれその時が訪れてから対処すればいいだけの話。
そうそのはず。そのはずなのだが・・・
後は野となれ山となれ。
ルインお気に入りの慣用句も、なぜか今は機能しない。確かに何か歯に詰まっているのに、どうやっても取り除けないむず痒さを感じる。
「あ゛―――っ!もう寝るっ!」
ガタリと大きな音を立てながら椅子から立ち上がり、起床後数時間で再び就寝しようとするルインの元に、レックが帰ってきた。
「ルイン、ごめん。今すぐ安静にできる場所と水とタオルを用意して!」
そういうレックの姿は、買い物袋の他に一人の人間を抱えていた。
というわけで、本来はルインが寝ようと思っていたベッドの上にレックが抱えてきた人間を寝かせることになった。
大分ぐったりと衰弱していたが、少し寝かせて水を口に含ませたら落ち着いたようだ。呼吸も安定している。
連れてきたレックによると、買い物からの帰り道、曲がり角で出会い頭にぶつかり、そのままバッタリと倒れて動かなくなってしまったそうだ。
レックは今の衝突でどこか悪いところを打ってしまったのではと慌てて様態を調べてたところ、呼吸も脈も至って普通であり、怪我も見当たらなかったため、救急隊員を呼ぶよりも家に連れて帰ったほうが早いと思い、今に至るとのことだ。
今ベッドに横たわっているその人は、ルイン達とおそらく同年代なのだろう。
服装も髪型も特にこれといった特徴はなく、いわゆるモブAといった感じの出てたちである。
しかしなぜだろう、この少年からは不思議な違和感が溢れている。
なんというかその・・・あまり日常でこういった感覚に陥ることがないため上手い喩えが見つからないが、とにかく何か「ズレて」いるような気がするのだ。
そんな妙な違和感をまとった少年の違和感さを象徴するものが、先程までは背中につけていた、鉄パイプである。
持ち物をパッと見た感じ、この少年も放浪者であると推測されるが、何が起こるかわからない道中、放浪者にとって武器の携帯は必須事項である。
もしこの鉄パイプがその武器の代わりだとするならば、それは無鉄砲の阿呆のすることである。
しかし、他に武器らしいものも見当たらない。というか、荷物自体が少ない。というかない。本当に身に付けているもの以外は食料の入ったバックも何もないのだ。
とにかく4人は少年が目を覚ますまで待つことにした。
やがて少年の目がゆっくりと開かれ、一の字からL字型にガバリと跳ね起きた。
額に乗せられていた濡れタオルが前に飛んで落ちたのにも気づかない様子できょろきょろとあたりを見回し、その目がルイン達をとらえた。
とりあえずレックが声をかけてみることにした。
「大丈夫?少し脱水症状の気があったけど、とりあえずこれを飲んで落ち着いて。」
しかし少年は酸欠状態の鯉のごとく口をパクパクと開け閉めする。どうやら返す言葉を探しているようだ。
「す、 すいませんでしたぁーーーっ!」
前後上下左右どこを見回してももれなく真っ暗。見えるのは自分の体だけ。
そんな状態だから自分が今立っているのか浮いているのかもわからない。でも髪や服にふわふわとした感じはしないから浮いてはいないのかもしれない。
向かってくる敵もなく、迎えに来る仲間もいない。ただただ一人空間に漂っていた。
普通ならこのあたりで人は恐怖を感じ始めるだろう。
だが、ルインは特に何も感じずに為すがままの状態だった。
だが、そんな均衡が突如崩れた。
ルインの体中の細胞という細胞が一斉に恐怖し逆立つのを感じたのだ。
敵?の姿は見えない。そもそも敵が来たくらいでルインは恐怖しない。
今自分に迫っているのはそれとは全然違う恐怖。腕を縛られた状態で黒板を引っ掻いた時になる音を延々と聞かされるような、誰もが根を上げる、しかしそれでも許されないような恐怖だ。
今度は遠くから光が見える。しかし、今までいた暗闇の中から解放される喜びはない。
その光を見ると、今度は頭が猛烈に痛くなるのだ。
解けない結び目を無理やりにでも解こうとしたとき、もし紐に痛覚があれば感じるであろうほどの痛みだ。
来るなと思えば思うほどどんどん近づいてくる。
そしてその光が眼前いっぱいに広がり、ルインの体をを包み込んだその時!!
ルインは目を覚ますのである。
「また夢か・・・」
の一言を残して。
時は数時間ほど進んで朝と昼の中間ぐらいの時間、つまりだいたい午前10時頃の話である。
今日も特に何もすることがないアコと、窓辺の椅子に座り読書にふけっているツェリライと、買い出し中にて不在のレックと、珍しく何か考え込んでいるルインがいた。
どのくらい深く考え込んでいるかというと、いつもは視線を向けられるとすぐに反応を返すのに、今はアコがルインをガン見しても全く気づかないほどだ。
そのいつもと違う様子のルインを前に、アコはまるで珍種の動物を発見したかのように恐る恐る近づいて・・・
両腕を上にあげ、手をプラプラさせながらヘロヘロと動き回るという珍妙な動きをし始めた。
しかしルインは全く気を向けない。
「うーん、すごい集中力ね・・・」
仕方がないのでアコは注がれたまま口が付けられていないコーヒーに手を伸ばした。
するとルインはその手をぺしりと叩き落とした。若干力がこもっていた気もする。
ルインはそのままカップを手に取り、若干ぬるくなったコーヒーを一口飲み、小さく溜め息をついた。
そんな様子のルインを見て、アコは床に落ちている物がゴミなのか虫なのか判別つかずに困ったときにしそうな表情を浮かべる。
「・・・本当に大丈夫?」
「ガチ心配はやめて。なんかヘコみそうになるから。」
ルイン自身今の自分に困惑しているので、とりあえず強がっておいた。
「しかし、本当に珍しいですね。あなたがそんなに深く考え事をするとは。」
本からは全く目を離さないまま、ツェリライが会話をつなぐ。
「う〜ん、そうなんだよねぇ。自分でも僕らしくないとは思うよ。たかが他人に投げかけられた意味深な台詞一つに振り回されるなんて。」
そう言うとルインは思い切り背もたれに寄りかかり、椅子に深く沈み込んだ。本当はコーヒーのおかわりをしようかと思ったが、今は面倒くさいのでやめた。
「そこまで来ると珍しいを通り越して不気味ですね。大丈夫ですか?」
「だから、ガチ心配はやめてくれと。別にどーってことないと思うよ。多分。」
返される言葉も、いつものような投げやりさ加減、もとい自信がない。
「『悪意により生み出された種が植えられ、やがてそれは芽を出し実を成す。それが再び地に落ち、如何なる花を咲かせるか、見届けさせてもらうぞ・・・』でしたっけ。あの言い方から察するに、もしかするとあの人はルインさんの過去に関わっていたのでは?」
そう尋ねるも、ルインはゆっくりとかぶりを振る。
「うんにゃ、全く記憶にございません。最も、それ以外の記憶もないから、本当に会ったことがないかは知らないけどね。」
そう、今自分たちの手元にある情報は全くと言っていいほどない。さらに言うなら、言葉の真意を考える必要性もはっきり言ってない。自分に関係ないことであればそれまでだし、関係あることであればいずれその時が訪れてから対処すればいいだけの話。
そうそのはず。そのはずなのだが・・・
後は野となれ山となれ。
ルインお気に入りの慣用句も、なぜか今は機能しない。確かに何か歯に詰まっているのに、どうやっても取り除けないむず痒さを感じる。
「あ゛―――っ!もう寝るっ!」
ガタリと大きな音を立てながら椅子から立ち上がり、起床後数時間で再び就寝しようとするルインの元に、レックが帰ってきた。
「ルイン、ごめん。今すぐ安静にできる場所と水とタオルを用意して!」
そういうレックの姿は、買い物袋の他に一人の人間を抱えていた。
というわけで、本来はルインが寝ようと思っていたベッドの上にレックが抱えてきた人間を寝かせることになった。
大分ぐったりと衰弱していたが、少し寝かせて水を口に含ませたら落ち着いたようだ。呼吸も安定している。
連れてきたレックによると、買い物からの帰り道、曲がり角で出会い頭にぶつかり、そのままバッタリと倒れて動かなくなってしまったそうだ。
レックは今の衝突でどこか悪いところを打ってしまったのではと慌てて様態を調べてたところ、呼吸も脈も至って普通であり、怪我も見当たらなかったため、救急隊員を呼ぶよりも家に連れて帰ったほうが早いと思い、今に至るとのことだ。
今ベッドに横たわっているその人は、ルイン達とおそらく同年代なのだろう。
服装も髪型も特にこれといった特徴はなく、いわゆるモブAといった感じの出てたちである。
しかしなぜだろう、この少年からは不思議な違和感が溢れている。
なんというかその・・・あまり日常でこういった感覚に陥ることがないため上手い喩えが見つからないが、とにかく何か「ズレて」いるような気がするのだ。
そんな妙な違和感をまとった少年の違和感さを象徴するものが、先程までは背中につけていた、鉄パイプである。
持ち物をパッと見た感じ、この少年も放浪者であると推測されるが、何が起こるかわからない道中、放浪者にとって武器の携帯は必須事項である。
もしこの鉄パイプがその武器の代わりだとするならば、それは無鉄砲の阿呆のすることである。
しかし、他に武器らしいものも見当たらない。というか、荷物自体が少ない。というかない。本当に身に付けているもの以外は食料の入ったバックも何もないのだ。
とにかく4人は少年が目を覚ますまで待つことにした。
やがて少年の目がゆっくりと開かれ、一の字からL字型にガバリと跳ね起きた。
額に乗せられていた濡れタオルが前に飛んで落ちたのにも気づかない様子できょろきょろとあたりを見回し、その目がルイン達をとらえた。
とりあえずレックが声をかけてみることにした。
「大丈夫?少し脱水症状の気があったけど、とりあえずこれを飲んで落ち着いて。」
しかし少年は酸欠状態の鯉のごとく口をパクパクと開け閉めする。どうやら返す言葉を探しているようだ。
「す、 すいませんでしたぁーーーっ!」
作品名:ACT ARME10 謎謎謎謎 作家名:平内 丈