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最後の孤島 第3話 『煙にまかれて』

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「……ああ、徳子に会いたい」

 倉澤は、私がいることなど忘れた感じで、女性の名前を呟いた。無邪気な私は、奥さんか恋人かなと思ったが、
「内地に帰ったら、温泉宿で楽しみたい! まずは、帯回しから始めて」
売女のことだった……。ジジイのセクハラ発言を聞くほど、嫌なことはない。
「じゃあね! ちゃんと食事は取りなさいね!」
私は家から出ていく。倉澤が、言葉遣いがどうのこうの言ってきたが、無視してやった。


「どうだった?」
自称現役軍人の家から出た途端、ダニエルが茶化してきた……。イジワルではなく、私を励まそうとしてのことだろう。
「認知症ではないとはいえ、嫌な義父に手を焼く嫁のような気分がする!」
私は正直に言ってやった。
「ごめんごめん! でも、他になかったんだ」
ダニエルだって、気が進まなかったに違いない。あのジジイの世話は気が進まないが、ここは彼の身を立ててあげよう。
「大丈夫よ。私、やるから」
「おお! ありがとう!」
彼は、オーバーに喜ぶ。


 さっそく私は、あのジジイのために、食材の用意からしてやることにした。同じ日本人だし、だいたいの好みはわかる。とりあえず、魚を喰わせておけばいいだろう。
「ヒナ! これを使えよ!」
ダニエルが、魚獲り用の網を持ってきてくれた。これを海に投げて、魚を集めろというわけだ。今までやったことは無い。
「がんばれよ!!!」
ダニエルは、ヤシの木の下に座り、私を温かく見守っている。日光で、笑顔が輝いて見える。
 彼は、なんともヒマそうだった……。クソ真面目な日本人である私には、とても耐えられないだろう。

 ダニエルの視線が気になりつつも、漁を始める。まだ昼前なので、昼飯と夕飯用のおかずにできるだろう。
 砂浜から海中を見回していると、さっそく魚を見つけることができた。鮮やかなオレンジ色をした熱帯魚だ。毒魚でなければ、食べられるだろう。
「えいや!」
網を海へ放り投げる。宙で広がった網は、海面に落ち、パシャンという小さな水音を立てた。そして、海中の魚目がけて、沈んでいく。