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最後の孤島 第3話 『煙にまかれて』

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【ダニエル】(2)



 必死に走りながらも、周囲が暗くなっていくことに、だんだん怖くなってくる。

 オレは、あの売人を追いかけている。ピストルを突きつけられたときは、確かにビビった。それは認めよう。
 しかし、売人が逃げるのを、そのまま見過ごすわけにはいかない。銃口を突きつけられたショックで、動けなくなったなんて、ヒナには言えない……。事情が事情とはいえ、一生モノの恥だ。

 いなくなったところを確認すると、そいつの追跡を開始した。もちろん、バレないようにだ。恥ずかしいのは嫌だが、死ぬのも嫌だ。
「アイツ、めちゃくちゃ速いな」
地理的には、オレのほうが有利なはずだが、ヤツの足は速かった。まるで、モンスターに追いかけられているかのようだ。
 たぶん、オレとヒナに追いかけているからだけでなく、1つも売れなかったことへの恐怖心から逃げているのだろう。ああいうベテランは、失敗には敏感に反応してしまう。運が悪ければ、そのままウツになる。まだ13歳のオレが言っても、説得力に欠けるだろうが、成功の経験だけでなく、失敗の経験も積まなくては、人は成長しないというわけだ。

 おっと、そんな偉そうなことを言っている間に、ヤツは走るのをやめたようだぞ? さっと身を隠すオレ。
「もう追いかけてはこないだろう」
ヤツの余裕気な発言に、オレは笑いを堪える。走りは上々だったが、やはり地理的な有利が物を言う。
 野宿の準備を始めるヤツ。あの大木の根元で、今夜は過ごすらしい。ヤツにとってはいい場所だが、俺にとっては悪い場所だ。大木の周囲は開けており、接近が難しい。
 とりあえず、ヒナや応援がやってくるのを、ここで待つことにする。追跡という役目は果たせたのだ。いくらなんでも、カミカゼまでする必要は無いだろう。

 ヤツは、携帯式の固形燃料で火を起こし、温かい夕食を取り始めた。そういえば、昼飯は紅茶とクッキーだけだったな。お腹がすいてきた。うっかり腹が鳴らないよう、気をつけなくては。気をつけかたは知らないが……。
 なるべくきれいなところを見つけ、うつ伏せになる。草木のわずかな隙間から、ヤツを見張ることができる。

 大麻売人であるヤツは、食事を適当に終えると、リュックから何かを取り出した。
 簡単に予想できていたことだが、ヤツの手には、マリファナタバコのパックがあった。食後の一服というわけだ。オレの親父(まだ登場していないが)も、ときどきしているが、それは普通のタバコだ。
「なんか豪華な箱をしているな」
船の部屋で、オレたちに渡そうとした物とは違う。さすがに、文字は読めないが、高級なマリファナタバコであることは、見た目からすぐにわかった。貴族階級向けの商品というわけだ。