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最後の孤島 第3話 『煙にまかれて』

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 ――とあるアフリカの独裁国家でのことだ。それは、悪い噂しかない現地の軍隊に、商品を大量に売り渡した帰りに起きた。
 給料の遅配に困った将校が、大金を持ち歩いている俺の情報を、ゲリラどもに教えやがったのだ……。
 日本車を改造した戦闘車両2台が、俺が運転するジープの行く手を妨害する。あと少し反応が遅ければ、停車させられていただろう。だが、妨害は避けたものの、執拗な追跡が待っていた。応援の戦闘車両が3台加わる。
 よほど金に困っているらしいが、手持ちの金だけで逃がしてくれる雰囲気は無い……。運が良ければ、楽に殺されるだろう。
 TOYOTAの赤い文字がついたピックアップ車両の荷台から、固定式機関銃で銃撃を受ける。他の車両からは、自動小銃『AK47』が火を噴く。
 車体に何発も着弾したが、俺は必死に車を走らせ続ける。ハリウッド映画のように、反撃する余裕など無い……。

 幸いなことに、追跡を逃れることができた。気がついたときには、夕暮れになっていた。いつの間にか、サバンナの道を走っており、周囲に人や車は、まったく無かった……。アフリカゾウが、ゆったりと歩いているだけだ。



「あっ」
昔話を思い出し終えた俺は、ハッとした。そして、勢いよく立ち止まる。
 もう夕暮れで、まるであのときのようだ……。安心しろ、俺。今回の危機は、死の恐怖など無い。あるのは、プライドを破壊されることへの恐怖だけだ。

 薄暗いジャングルの中を見回すと、すぐ近くに開けた場所があった。行ってみると、真ん中に大木が立っていた。たくさんの葉が、空を覆い隠している。
「もう追いかけてはこないだろう」
今夜は、その大木の根元で、野宿することにした。
 さっそく、リュックをそこに下ろして、準備を始める。たしか、ニシンの缶詰があったはずだ。


 温かい小さなニシンを、1匹ずつ口に運ぶ。食事は、心を癒す効果があるものだが、今はとても信じられない。
 厄日とはいえ、1つも売れなかったという精神的ダメージは大きい。明日は売れるはずだという自信はあったものの、売れなかったからどうしようという不安が、その自信をブチ壊していく……。
 自信を破壊したことに調子づいた不安は、俺の心をどんどん浸食していく。目は固形燃料の火、口は食事に集中していたが、その動きに心はこもっていない。
 不安のせいで、完全に上の空だ……。