即興小説掌編集
夢
最後に別れたのが五年前だから、もう連絡先も変わっているかもしれない。こうしてたまにきみを思い出して、忘れたふりをして何度もぼく頭の中できみが出たり入ったりしている。哀しい最後でもなかったけれどもう忘れてしまいたい。考えないようにする。でもときどき似ている誰かからきみのことを想起してしまう。
夢を見た。きみが出てきた。悪くない夢だった。
こうやって脳の中に閉じ込めてあるきみを出して眠っている間に会っていることになるなんてなんとも変態的で、鬱陶しがられそうで嫌だ。それでも幸せだったという夢の記憶のほうが勝ってしまった。脳のどこの部分にきみの記憶があるんだろう。どんな形をしているんだろう。もういいから、取り出してどこかに流してしまいたい。
記憶の中で生きるのをやめたいんだ。
こんなに思い出すのはつけなくちゃいけない決着をつけなかったからかもしれない。
あしたになったら連絡してみようかな。メールは返ってきてしまうかもしれないけれどどんな手を使ってでもあって、最後に言うべきことがあるはずだ。それを言ったらもう全部消えてしまってもいい。