小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

それが家門なら

INDEX|21ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

21 甘えてのろける



(1)

一夜も共に
しないまま
式を迎える
男の恨みを
甘く見るなよ
後悔するぞ

半ば本気で
けしかけたって

柳に風で
けろっとしてる
人にイカれた
代償だから

軽口たたいて
メールで茶化して
修行僧
さながら耐えてる
涙ぐましい
男に向かって
到底正気と
思えないって?

心配いらない
式挙げて
一晩過ぎたら
正気に戻る

“僕より先に
電話を切らない”

またとない
しおらしい
君の言質を
手に入れて
こっちから
あっさり切るバカ
どこにいる?

暇なら寝ててと
僕を無視して
誰かさんは
2時間平気で
パソコン打てる
僕は5分と
無理なのに

隣の君の
シートベルトを
締めるも
外すも
世話を焼くのは
僕の特権
この先ずっと
飽きるまで

いつの日か
生まれてくる子に
ママを返せと
駄々こねる
夫の姿を
見たくなければ
ほったらかさずに
大事にするべし

たかがこれしき
男だったら
ごく平均の
域を出ないと
思うけど

甘えん坊だの
年を逆さに
取ってるだの
今に子どもに
笑われるだの
言いたい放題

口達者な
君にかかっちゃ
これっぽっちの
憎まれ口で
済むはずもなし

幼稚っぽいとか
みっともないとか
カリスマの
カの字もないとか
騙されたとか

もうすでに
頂戴ずみの
褒め言葉だか
悪口だかは
数知れず

でも
それでいい
大いにけっこう

僕が一言
言うたびに
呆れかえって
ため息ついて

だけどそのあと
まず間違いなく
笑い出すから
それでいい

一生甘える
死ぬまで
のろける

君が笑うと
判ってるから


(2)

「気がついたら
笑ってた
あなたのそばで
知らず知らず
笑ってた」

芝居がはねて
間もないころ
買収が
日々着々と
進んでたころ

自分を責めて
苛立つ僕を
負けない強さで
即 遮った
まっすぐな声

突然の
君の告白

僕は2つの
頭で聞いて
聞いた頭が
2つ勝手に
うろたえた

芝居がいつか
本気になるほど
君に焦がれた
男としては

2度と再び
戻れない
昔話と
判っていても

目を覚ませ
笑って生きろと
躍起になった
遠い昔が
無駄ではなかった
証に聞こえて
誇らしくて
うろたえた

その一方で

獣は獣の
道を行くと
意地になってた
鉄面皮には

侮辱の限りを
尽くした獲物に
慰撫されるのは
拷問だった

世の中で
いちばん苦痛な
罪の報いが
どんなものだか
君は知ってる?

罪を犯して
責められもせず
なじられもせず
ただ一心に
慰撫されること

痛みを負わせた
その本人に
慰撫されること

そして何より
その本人が
自分が惚れた
女であること

因果応報と
耐えようにも
慰撫される獣にとっては
拷問よりも
拷問すぎて
うろたえた

知らず知らず
笑ってたという
あの一言は

君と演じた
芝居への
思いもかけない
過分な褒美

そして一生
負うべき重荷

だからこそ
死ぬその日まで
噛みしめようと
心に刻んだ

あの日
あのとき
一言一句
君の声音を
心に刻んだ

僕のそばで
笑ってたって?

知らず知らず
笑ってたって?

それなら僕は
笑わせる

獣には
許されないと
諦めきってた
夢だから

獣をやめて
人になるから

その夢を
叶える資格を
授かった
今だから僕は
笑わせる

笑いたくても
笑えなかった
10年を
取り戻させる

これから先
今までの分も
存分に笑って
生きさせる

獣を人に
してくれた君を
僕は一生
笑わせる

だから甘える
甘えて
のろける

君が笑うと
判ってるから

作品名:それが家門なら 作家名:懐拳