言の寺 其の弐
処分できない曜日の事情
「『この感情』は何曜日に棄てたらよいの?」
「……その感情は燃えるのかい?」
「というと?」
「つまり燃えるような感情ならば、燃えるゴミの日でいいんじゃないかな?」
「……分からないの。とはいっても実際に火を点けてみるわけにはいかないし。」
「じゃあ不燃性なんだろう、きっと。水曜日でいいと思うよ」
「簡単に決めつけないで!私はちゃんと自治体の定めたルールに則って、『この感情』を 分別して、処分したいの!」
「……分かったよ。じゃあ質問するけど、その感情の大きさは?」
「大きさ?」
「あんまり大きい感情は、粗大ゴミの可能性が高い」
「なるほどね……でも大きさもはっきりしないわ。大きいような……小さいような……」
「危険かい?」
「え?」
「危険物なのかい?その感情は」
「人を傷つけることもあると思うわ……でもだからといって、危険物というレッテルを貼るのは違うかも」
「生々しい感情?」
「だとしたら、生ゴミってことなのかしら?分からない」
「ふー、困ったな」
男は途方に暮れたーーそこでふと、思い当たる。
「最期に聞いておくけど、そもそも『その感情』は、本当にゴミなのかい?棄てるべきものなのかい?」
「…………」
「君、本当は『その感情』を棄てたくはないのじゃないかな?……どうなんだい?」
優しく問い詰められて女は、涙を目に溜める。
ゆらゆらと揺れる透明な液体の揺らぎに男は、すべてを察した。
「『その感情』……僕のせいなんだね?」
指が、頬を撫で。その背で涙をすくい取る。
「棄てる必要なんかないよ。君の『その感情』は、棄てるべきものではない、だって」
顔を近づけてーー
「それとおなじものを……僕も棄てずに持っているんだ」
こうして、カレンダーにないはずの曜日が、生まれたのです。