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30年目のラブレター

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 次の日高知を発って東京へ戻ってきた。東京でゆっくり職を探した。
「あなたのやりたいことをやってくれればいいのよ。今こんな不況の中、そんな高い給料望めないわ。だったら長く続けられるところにした方が」
「そうだな。昔からやりたいことがあったんだ。給与も少ないから迷惑かけるかもしれない。ボーナスも出ないかもしれない」
「いいわよ。あなたがやりたいことをやって」
 私は東京から離れた横浜の障害者施設のリハビリテーション施設、スポーツ施設でヘルパーとして働いた。そこでは、身体障害者、知的障害者、精神障害者がリハビリテーションの為に、また社会復帰の為の通っている。車椅子でみんなでバスケットボールをやったり、知的障害者がヒップホップダンスをしたり、ほかにもいろいろな活動をしている。

 私はある身体障害者の人の担当をすることになった。良守君という。15歳だ。ガイドヘルパーも兼ねて、彼を援助する。彼は生まれた時から下半身がもぎ取られたようにない。車椅子に乗っかるように乗り、一人で手で車椅子をこぐ。私は彼の車椅子の移乗やプールでの着替えをする。

 プールに連れて行くと驚いたことに彼は足がないにもかかわらず、クロールを泳ぐ。バタフライを泳ぐ。時々となりのコースの水がかかって良守君の口に水がかかる。必死でむせながら、体勢を整えるのもおぼつかず、また必死に泳ぐ。
「大丈夫?よっちゃん。」
 私が言うと、手でガッツポーズで大丈夫と答える。そしてまた必死に水をかき分け、バタフライを泳ぐ。ゆっくりと。

少しづつ前に進む。

必死に泳ぐ。

初重の言葉を思い出した。
“みんな凡人になる為一生懸命なんよ”

「川端さん。川端さん。」
よっちゃんが呼んでいる。
「どうしたよっちゃん?」
「体の向きを変えたいんだよ」
「こう?」「ありがとう。川端さん」
またしばらく彼を見守る。
「川端さん。着替え宜しく」
「川端さん今度の日曜日休みじゃないよね?」
「うん。出勤だよ」
「良かった。ダンス教室の人たちの発表があるんだ。ずっと楽しみにしてて」
 
“ああ。俺は必要とされている。必要としてくれている人がいるんだ”

“生きなきゃ―― 生きなきゃ――”

                                      (了)
作品名:30年目のラブレター 作家名:松橋健一