小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

gift

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 疑問形ではあるが、私に拒否権はない。成す術なく私はご主人に掴まれるままにしていた。
 最後にもう一度、落ち続ける宇宙を見上げた。この星たちは一体いつから我々を見ているのだろう。毎日毎日、こんなちっぽけな私たちを見て退屈ではないのだろうか。そして、きっと彼らからしたら瞬きするうちに死んでいく我々に何を思っているのだろうか。諦めか、寂しさか。
 戸をくぐると一瞬にして部屋が昼間のように明るくなり、明暗の変化に驚いた。何度か瞬きをするとすぐに慣れたが、なんだか得体のしれない虚無感が残った。
「今日は本当に寒いなあ。こたつで寝ると風邪をひきそうだ」
 ご主人はぶつぶつ言いながら部屋の電気を消し、こたつを通り過ぎて廊下へと歩みを進めた。そして開かずの間の前に立ち、戸の取っ手をゆっくりと回した。
 そこは何の変哲もない寝室だった。ちょっとした箪笥と、ベッドが置いてある。私は初めて生で見るふかふかの布団に目を輝かせた。この家のこたつ布団は薄っぺらいのだ。
 思わずご主人の手をすり抜け、ベッドへ飛び込んでしまう。マットのばねがなんとも形容しがたい面白さだ。私はぴょいぴょいと不器用に布団に潜り込んだ。少々鳥臭いが、じんわりと溜まっていく温もりが心地よい。
「落ち着けよ、もう夜中だぜ」
 ご主人も続いて布団に潜り込んだ。どうやらこのベッドはご主人サイズより一回り大きいらしい。ベッドと布団の大きさがちぐはぐだ。
「なあネコ、うちにきてくれてありがとうな」
 布団の中でご主人が私をうりうりと撫でた。その目がいつもよりも濡れているのに気がついて、先ほどの雨に合点がいった。
「私こそ、ご主人に拾っていただけなければ、今頃ぺしゃんこになって死んでおりました」
 ご主人の体温が布団を介して私を包んでいく。そのせいか、とても眠い。
 人間は贅沢で、とても愚かだ。しかし、暗闇を嫌って明かりを灯し、自身の死から目を逸らして生きながら、一方でひと思いに流れて消える流星を羨むその姿からは、愛しささえ感じる。
 私は、おそらくご主人よりも先に死ぬだろう。それを知りながら私を近くに置く、強がりで弱虫なこの人は、私が死んだら悲しんでくれるのだろうか。流れ星を見て私を思い出してくれるのだろうか。
 私はコマ切れの意識の中、一言お礼を言った。どうかこのままあなたと共に生きさせてほしい、と思いながら。
 ご主人の額と私の額がぶつかった。私はうっとりとするようなまどろみの中、ご主人の言葉を聞いていた。そしてまぶたの重みに耐えかねて、夢の中へと引き込まれたのだった。
「ああ、いいよ。だからいきなりいなくなったりするなよ、ねこ」
作品名:gift 作家名:さと