【創作】「背中合わせで抱きしめて」
アレン、ウィズ。十四歳のある日ー
「ウィズ、忘れ物はない?」
「ないよ」
アレンが明日の支度をしている横で、ウィズはボードゲームに興じていた。双子の兄は自分の支度を終えると、投げ出されたウィズの鞄に目をやる。
「筆箱は? 消しゴムなかったりしない?」
「しない」
「本当かよ」
アレンは手を伸ばして、ウィズの鞄を引き寄せた。中をかき回し、足りない物はないか、一つ一つ確認する。
「あれ、数学のプリントは?」
「その辺にある」
「もー。ちゃんと入れとけよ」
「まだ提出期限じゃない」
「でも、終わってるだろ」
アレンは、ウィズが「その辺」と示した山をかき分け、折り目のついたプリントを引っ張り出した。丁寧に伸ばしてノートの間に挟むと、ウィズの手元をのぞき込む。
「それ、一人でやって楽しい?」
「アレンとやるよりは」
「なっ!? 昨日は勝っただろ!」
「あれは手加減してやったの」
「何だとー!」
アレンが飛びかかると、ウィズも負けじと応戦してきた。ドタバタゴロゴロ暴れ回っていたら、階下から母親の叱責が飛ぶ。
「二人とも! 静かにしないと御夕飯抜きよ!!」
『ごめんなさーい!』
ぴったりのタイミングで言うと、二人は顔を見合わせてくすくす笑った。
「アレーン、次は第二理科室だって。行こうぜ」
「あ、ごめん、先行ってて。ウィズ連れてくから」
アレンは、だらだらとノートに落書きしているウィズの腕を取り、強引に立たせる。教科書ノート筆箱をひとまとめにすると、ウィズに持たせてほらほらとせき立てた。
「数学のプリント、ちゃんと出した?」
「あー、まだ。後で行く」
「またかよ。じゃあ、昼休みに」
「いや」
教室を出たところで、ウィズがいきなり立ち止まる。アレンは驚いて振り向き、
「ウィズ?」
「放課後行く。他の用事もあるし。アレンは図書室で待ってて」
「え? 何で? 俺も」
ウィズは首を振って、他の用事もあると繰り返した。
「ちょっと時間が掛かるかもしれないし」
「だったら、なおさら」
「いや、俺一人の方がいいから」
そう言って、ウィズはすたすたと廊下を歩き出す。アレンも慌ててついて行きながら、言いようのない不安を覚えていた。
作品名:【創作】「背中合わせで抱きしめて」 作家名:シャオ