殺人鬼カイの秘密
「カイ」
今度はラウルを捉えていた隊長の鋭い眼光がカイに向けられる。カイは一度隊長から目を逸らすと、矢継ぎ早に口を開いた。
「ボヌール街の依頼を合計三件、大通りの貴族婦人らの依頼を合計二件、サイゾ貴族一家の依頼を合計二……いや三件だったかな。それと第一級貴族らの窃盗依頼を五件、それからボズ貴族伯爵の依頼を」
「もういい。お前は少しは休め」
カイの頭をそっと隊長の手が撫でる。態度を責められると思っていたカイは突然の事に驚き隊長を見上げた。その異様な光景に全ての隊員の視線がカイに集まる。ラウルが恥ずかしげにカイのコートの裾を引っ張ると、隊長は咳払いをしカイを正面から睨みつけた。
「貴様の成果は我々部隊の成果に繋がっている。その自覚を持ったまま己の身を削ることは断じて禁ずる。貴様は主要隊員として部隊を成功に引っ張っていく責務があるのだ。報酬は後で受け取りにこい。いいな」
「……はっ」
カイは内心認められた喜びで一杯だったが、あくまで冷静にそれに応えた。隊員達にざわめきが広がる。
「ではこれで報告は一通り済んだな。次は貴族からの依頼と報酬の発表がある。今回は前回よりも依頼が多い為手分けして職務を遂行すること。以上だ」
「はっ!ここからは私ピエリ補佐隊長が取り仕切る!隊長に多大な感謝をし、諸君らその場に休め!」
待ってましたとばかりにあちこちから声があがる。ピエリは隊長と違い厳格な雰囲気を持ち合わせていない。会議はピエリの冗談を交えながら進むのが日課で、隊員たちは緊張をほぐして臨むことが出来た。 カイも安堵の溜め息をついてその場に座り込むと、後ろのラウルから背を叩かれた。
「なんだよいきなり」
「カイ、隊長が今すぐ来いって」
ラウルが指差す方を見ると、少し隊員から離れた位置に隊長の姿が見えた。カイと目が合うと何か言いたげにに身をひるがえし、テント群の間を大通りに向けて歩んでいく。さっきの報酬の件だろうか。カイは狼狽えてその場に立ち上がるとラウルを振り返った。ラウルは頷き、カイの背中を押す。それを合図にカイは無造作に座り込んだ隊員たちの合間をぬって隊長のもとへ駈け出した。
「おいカイ君どこへ行くんだ!まだ話は終わってないぞ!」
「カイは少し急用があるみたいです。俺がカイに話を伝えておきます」
ラウルがピエリに微笑む。ピエリは口元を引き攣らせながら渋々了解した。隊員達は皆カイの存在について何か話したげだったが、同じ下層町民の身として本気で追及する者は誰もいなかった。ラウルは遠くなるカイの姿を見てぼんやり考え込む。
「またアイツ無茶な依頼でも受けないといいけど……」
カイが居ないままピエリの話は続いていく。
ラウルは仲間の身を案じながら暗殺依頼について話を聞くしかなかった。