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御崎かなで
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殺人鬼カイの秘密

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 周囲を広大な海に囲まれ、豊富な金を採掘出来る鉱山を所有しているここフルーリール王都では、その資源採掘の利便性と平和で自由な国風から国外の王都から高い評価を得ていた。極めてその評価に値すると言われているのが、「都民平等」とされている階級制度である。王都ではよくある最下級の階層を無くし、都民を「貴族」「町民」のみに分けることで、差別や貧富の差を無くすフルーリール王都だけの階級制度であった。
 しかし、その階級制度が上手くいっていると思い込んでいるのは国外の者のみであった。実際は貴族の力によって町民は「上層町民」「下層町民」に分けられ、暗黙の了解として下層町民を不満や怒りの捌け口として扱っていた。食べ物を剥奪され、寝床は壊され、悪趣味な仕事を押し付けられる下層町民が現に3万人以上はいるという――少年もその中の一人であった。

「おい、お前昨日の件は上手くいったか」
 端正な顔立ちをした金髪の少年が顔を覗きこむ。そして執拗に腕を叩いてきた。
「何だよ……まだこんな時間だろ、もう少し俺は寝る」
「寝るなよ!仕事に関してはちゃんと報告しろと言ってるだろ、カイ!」
 カイと呼ばれた少年は、鬱陶しそうに片目を開けもうひとりの少年を睨んだ。
「人を殺すたびに泣きながら報告するラウルに言われたくないね。心配しなくともものの十分で終わったよ。それと団長には就寝する前に報告した。今回の報酬もアサリのスープとパンだけだったけどな」
「またスープにパンかー……俺はともかく、お前は手長海老の煮込みくらい報酬に出てもいいのにな。知ってるか?手長海老、あれ超美味しんだぜ」
 ラウルが目を輝かせながらカイの頭を叩く。その手はとても柔らかく優しい。黙って叩かれていたカイは身体を起こし、ボロボロに千切れた段ボール箱から着替えを出し始めた。
「あれ、もう起きんの?早くない?」
「お前に起こされたんだよ。それに今日は会議があるだろ。団長の頭に角が生える前にさっさと準備しちまおうぜ」
 カイは手早くコートに身を包んだ後、その左胸に紋章を付けた。フルーリール王都を象徴する十字の盾と二人の天使があしらわれた紋章である。が、よく見るとその天使には羽が生えていない。そればかりか二人の天使にそれぞれ赤褐色の剣と青銅色の剣が持たされている。これはフルーリール王都下層町民の印であり、また『フルーリール王都極秘暗殺部隊』の印であった。これを付けてさえいれば警備隊からの理不尽な暴力や取り調べは免れる。しかし羽を失った天使のように、自由の身になれることは無い。

 カイはそっとテントの垂れ幕をめくった。冬の張りつめた空気と暖かい日差しがテント内に満ちる。ラウルは身震いした後、カイと同じくコートに袖を通し紋章を付けた。会議場と称した広場にはまだ誰も集まっていない。
「会議場にはまだ誰もいないぞ。やったなラウル、一番乗りだ」
「一番乗りってことは朝食準備も俺らってことだろ?嫌だな起こすんじゃなかった」
 愚痴愚痴言いながらラウルがテントの外に出る。思い切り伸びをした後、カイの肩をポンと叩いた。
「ま、人殺しの感触を忘れるには早寝早起きが一番だ。なっ?」

 朝日がじりじりと暑さを増してきた頃、あちこちのテントから人声が聞こえるようになり、カイやラウルに次いで会議場に集まる人が多くなった。カイ達の極秘暗殺部隊は、フルーリール王都の南端に位置するクラージュ広場で昼夜を共にしている。二人一組のテント生活であり少々不便だが、それでも下層町民の中では一番快適な生活を営めていた。王都から部隊の存在を認可されている為、一定の成果を上げれば依頼人の貴族から報酬が提供される。その僅かな報酬を賭けて隊内は日々切磋琢磨していた。そしてカイとラウルは暗殺部隊でも凄腕の暗殺者として名を馳せている。最も二人はそんな事を知るはずもなかった。

「はいはい並んで並んでー!一人一杯までだぞ」
 ラウルの炊く錆びた鍋からココアの甘い香りが漂う。続々と人が鍋の前に集まり、各々一杯のココアを大切に飲み干していった。それを柔和な表情で見届けたカイは、鍋底に溜まったココア粉の塊を指ですくい取るとペロリと口に運ぶ。満足気なカイを見てラウルも同じように塊を口に運んだ。
「今日のココアはまあまあだったみたいだな」
「……それでもやっぱり隊長の作るココアには負けるなぁ」
「仕方ねぇよ。隊長はココアを作って早5年以上だぜ」
 そう言うとカイとラウルは顔を見合わせて笑った。隊長が暗殺部隊に就任した時、まだカイは暗殺部隊に属していなかった。ラウルは物心ついてからずっと暗殺部隊に居るため、隊長のココア作りの過程をよく知っている。初期はココア粉を丸呑みしていた隊長だったが、現在では貴族にその腕を買われるほどココア作りが上達した。その時のことをラウルは時々思い出しては可笑しそうにカイに喋るのだった。
 そうして再度ラウルが鍋のココアをすくい取った瞬間、突然銃の発砲音が広場に鳴り響いた。鍋の周囲で談笑していた人々は顔色を変え、足早に会議場の中央に整列を組んでいく。カイとラウルも飛び跳ねるように鍋を置いて、駆け足で整列した。

「これよりフルーリール王都極秘暗殺部隊の朝礼会議を始める」
 黄金色のファーを付けたコートを身に纏った隊長が重々しい声で隊員の敬礼を促す。部隊の様々な有事を己の頭脳と腕一本で切り抜いてきた自信と風格がそこにはあった。精悍な顔と鋭い目つきで隊員を圧迫するが、その中身は下層町民の誇りを守り続けている一人の青年だ。
「まずは諸君らの職務成果を報告して貰おうと思う。西側からロイス、お前はどうだ」
 ロイスと呼ばれる気弱な少年は敬礼したまま応える。
「はっ!ルーズ貴族婦人からの暗殺依頼、命令期間内に一件成果を上げました!」
「……良いなロイス。次回からは一件以上の成果を上げろ」
 ロイスは息を飲み硬直するが、直ぐに我に返り敬礼をし直す。
「はっ!」
「よろしい。次」
 隊員は敬礼したまま隊長に促され成果を報告していく。成果無しの者は厳重に処罰され、普段以上の成果を上げた者には金になる装飾品が手渡された。暗殺が出来ない者は容赦なく淘汰されていくのが部隊のルールである。
 その様子を見ながらカイとラウルは手持無沙汰に足で地面を叩いていた。
「ラウル……退屈そうだな。お前はどうなんだ」
 ラウルの足がピタリと止まる。悲痛な面持ちで俯き、拳をポケットに突っ込んだまま小さな声で言った。
「ロザンヌ貴族一家の暗殺依頼、ロザンヌ従妹貴族婦人の依頼、ポーケ貴族伯爵の依頼、命令期間内に八件の成果を上げました」
 じわじわと尻すぼみになる声と共にラウルの目に涙が浮かぶ。隊長は目を見開き、ラウルの顎を掴み上げた。
「良くやった……が、お前はその泣く癖をどうにかしろ。部隊に慈悲や同情は要らない」
 隊長はラウルの顎を離すと、ポッケから抜いたラウルの手の平に大量の装飾品を落とした。宝石や懐中時計に羅針盤など貴族の高級品が次々と手に積もる。ラウルは慌ててポケットに仕舞い込んだ。そしてカイの後ろに隠れるように並び替える。

作品名:殺人鬼カイの秘密 作家名:御崎かなで