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セールス・マン
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しっぽ物語 12.野の白鳥

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 呼び止める取り巻きたちの声が遠くに霞む。死体を跨ぎ、断絶した親子の傍を横切る。医師はやってきた職員に指示を飛ばし、誰はばかることなくこの場を取り仕切っていた。ささやかないがみ合いを続ける男たちのどちらかが一度だけ視線を送ったが、すぐさま興味をなくして元の場所に戻っていった。少しだけ期待を抱いていたゲストはもう何の意味も持たず、隣に立っていた新聞記者だけが、冷静に声を掛けてきた。
「警察が来るまで、ここを動かないほうがいいぞ」
「嫌よ」
 女はそっけなく言い返した。
「ここには王子さまがいないもの」
 ふんと鼻を鳴らし、Rは自嘲めいた笑みを口の端に乗せた。
「そんなの、世界中のどこにだっていやしないよ、プリンセス」
「エリサよ」
 振り返り、鋭さと茶目っ気が半分ずつの眼で睨みつける。
「そんなくだらない呼び方はやめて。私の名前はエリサなの」
 Rが驚いたように叫ぶ。
「あんた、自分がだれか分かったのか」
 彼が言葉の続きを言う前に、エリサは駆け出していた。




 ――了――