深く眠りし存在の
気落ちしている松本を見送った後実家に戻り、両親と親族でもある菊、康裕を前にして、毅然とした態度で、考えるところを話した。毅然とした態度が功を奏したのであろう。4人とも口を差し挟めず、うなずくしかなかったようである。
「房枝おまえ、変わったなぁ。昔の房枝は、いつもオドオドしてたもんやったが・・・これもオキツネサマの力やろか」
父がつぶやいている。4人を交互に見つめて、言葉を区切るようにしてはっきりと告げたのである。
「祈祷師としての務めは果たします。ただし条件があります。毎週日曜日に来ますから、その日の午前と午後にひとりずつ、あらかじめ希望者の中から優先すべき人を、選別しておいて欲しい。そうしたら、無闇に多くの人が集まる必要はないでしょう」
「だって、有難みが……」
不服そうに口挟もうとする母を睨みつけ、神棚のある部屋を覗くと、さらに続けた。
「金品は受け取らないこと」
これは了承されなかった。
「供物を捧げることによって御利益を得られると考えている者たち・・・あるいは御利益への感謝のしるしとして供物を捧げること、それを禁じることは、信じるな、と言ってることと同じ。決して、欲得からだけで受け取ってるんじゃないよ。自己満足からかもしれんが、その信者の気持ちを優先しとるんやから」
と強く反論されたので、これについては任せておくこととした。
房枝には、そういった考えは、キツネ、が言った『邪心』に当てはまるのではないか、とゆう疑問が残ったのだが。
帰るとすぐに、雄介に打ち明けた。この頃では雄介の仕事にも時間的余裕が生まれていた。千尋の相手をしてくれるとゆう。
「俺も立ち会ってもいいんだろう、一度ぐらいは」
「ダメ、二度とそんなこと言わんといて、お願いやから」
雄介や千尋には見て欲しくない姿だった、少なくとも現在は。
こうして、思いもしなかったことに、苦しみにある者の、その苦痛を和らげる手助けをしていく人生を受け入れたのである。それは、自分の生きがいともなっていくはずである。
自分の行為によって喜んでいる人の姿を見ることが、自身も喜びの世界に浸れるのだ、とゆうことに気付きつつあった。
自分の中でずっと眠り続けていた “本当の心” と、今向き合っているのだと感じていた。