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風と共に去るも悔いなし

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2 10年を賭した博打



自分に向かって
愛をささやく
男など

ひ弱で間抜けな
生き物と
見くびりきって
疑いもしない
勝気な小娘

それが
16の君だった

彼らの
切なる恋心に
鈍感を
決め込むことなど
朝飯前

それどころか
自分に惚れた
相手の弱みに
つけ込む才気は
まさに天性

彼らをじらし
もて遊び
飽きたが最後 
放り捨てて
良心の
呵責もない

にもかかわらず

その残酷な
君の仕打ちに
音を上げて
遠のいて行く
男の数より

堂に入った
君の媚態に
しびれる新たな
男の数が
常に多いと
来た日にゃ
君だけ責める
わけにもいくまい

世の中
実に傑作だ

あれは
トゥウェルヴ・オークス屋敷の
パーティー

俺は 
35か6だった

庭のジャスミンが
むせかえる初夏

にやけた顔で
言い寄ってくる
揃いも揃った
腰抜けどもを

やすやすと君は
手玉に取って
周りの淑女の
冷たい視線も
どこ吹く風

面識もない
16の少女の君に
目が止まり
そして
惚れこんだあの日

君の
一挙手一投足を
興味津々
見物しながら
俺は心に
とくと刻んだ

君を 
曲がりなりにも
手に入れたいと
思ったら

「この男
私にぞっこん
参ってる」など

ゆめ
自惚れさせる
ことなかれ

「この男だって
今に私の
思うまま」など

断じて 
侮らせるなかれ

これこそが

君みたいな
一筋縄で
いかない女と
対峙しようとする者が
何をおいても
肝に銘じるべき教訓

だから
君との10年は
俺にとって
のるか反るか
一世一代の
博打だった

惚れてる限り
惚れてるなんて
口が裂けても
言えない博打

それどころか
惚れてるなんて
露ほども
気取られちゃ
ならない博打

今になって
自嘲交じりに
昔話に紛らせるのが
やっとなほどの
死にもの狂いの
大博打だった

いや
自慢している
わけじゃない

まるまる10年
費やして
挙げ句の果てが
このザマだ

アシュレ君への
君の頑固な妄執を
断ち切ることも
叶わないまま
刀折れ 
矢は尽き果てた

男として
完膚なきまでの
大敗北

だれが見たって
明々白々
空しい10年と
笑うだろう

作品名:風と共に去るも悔いなし 作家名:懐拳