雑草のはなし
○映像が映っている。【男4 名無しの話】
映像が映る中、その映像から少し外れた場所で声がする。
男2 監督! まってください! 本当にやるんですか!? 監督!?
○男2入り。混乱している様子。
男2 僕一人では決定できるわけがない……津浪さんだ、あの人に相談しよう。
○男4はセリフ中に入り。ダンボールハウスの近くに座り、男2をジッと、見る。
男2 あっ、津浪さん!
○男2ハケ。男2入り、男1を連れてくる。
男1 なんだよ。
男2 相談が……。
男1 人に聞かれちゃまずいのか。
男2 え。
男1 わざわざ撮影クルーのいないとこにくるから。
男2 え、ええ、まだ聞かれちゃまずいかと。
男1 で、なんなんだ?
男2 ……耳を……。
○男2は男1に耳打ちする。男1は考えこむ様子でベンチに向かい座る。男2はそれにつ
いてベンチに座る。
○男1は一息ついて言う。
男1 それはさ、多町が言ってんのか。
男2 ええ、監督が。
男1 演者はなんて。
男2 いえ、もう、混乱してしまって。
男1 そうだろうな。
男2 どうしましょう。
男1 …監督にストップを出すのも、俺たちの仕事か…。
男2 ですよね、わかりました。
男1 …。
男2 津浪さん、監督の方に電話いってきます。
男1 …。
男2 津浪さん。
男1 馬田。
男2 はい。
男1 俺はおかしいのかもしれない。
男2 おかしい。
男1 …見たい。
男2 は…。
男1 それで、どんな画が撮れるんだろうな。
○舞台は暗く映像は一旦消え「ジィィィィ」というテープの音のみになる。女入り。
○映像が映る。女が椅子に座っており、男1は立っている。
女 …怖い。
男2 すみません、今日は。
女 …怖い。
男2 監督も、冗談だと思うので。
女 冗談なんて言う人。
男2 …。
女 …嫌がらせなんですよ。
男2 そんな。
女 演技力もないのに出しゃばって、グラビア上がりの落ち目の女優がとか思ってるんです。だからあんなこと言うんだ。
男2 監督は、そんなこと思ってないですって。
○舞台は暗く映像は一旦消え「ジィィィィ」というテープの音のみになる。男2ハケ。
○男2「馬田」はいない。女は座り、男1は横でしゃがみ込み、女をなだめようとしてい
る。
男1 海野さん。
女 私、やっぱりやめます。
男1 え。
女 できるわけがない……。
男1 馬田が来てましたね。
女 えぇ。
男1 あいつ、このカットに否定的で。
女 …
男1 なんだか、やめさせようとしてる気がするんです。
女 それは、そうですよ。
男1 なんで?
女 だって、変です。
男1 変だけど、面白そうだ。
○映像が消える。舞台は暗くなる。男1ハケ。
○男3、男5がのそのそとゴミやダンボールを回収し、歩いている。
○セリフ中から徐々に明るくなっていく。映像は消えている。
男3 こいつも貰っちまうかぁ。
男5 そこぁ、ゲンさんちじゃないか。
男3 あの人は死んじまったよぉ。
男5 あぁ、そうだったな。
男3 さみぃからな。
男5 何人目だい。
男3 さぁなぁ。
男5 数える気にゃなれんな。
男3 さっきの。ありゃあ、仏さんになったか。
男5 ああ、もちろん。ちゃんと確認したぞ。
男3 あれはここいらの人間じゃなかったな。
男5 というと?
男3 家のある奴だ。
男5 ヨシさん、よくわかるねぇ。
男3 匂いさ。
男5 匂い?
男3 そう。生き物の匂いさ。
男5 なるほど。
男3 もったいねぇもったいねぇ。
男5 そうだなぁ。ありゃあ、もったいなかったなぁ。
男3 しかし、危なかったなぁ。
男5 ああ、危ない危ない。
男3 さて、どんだけいるか。
男5 なにがだい。
男3 幽霊さ。今時期ここは墓場みたいなもんだ。
男5 見えなくて良かったなぁ。
男3 無関心だからだ。
男5 なんだいヨシさん。
男3 無関心だから見えても気づかない。
男5 そういうもんかい。
男3 そういうもんさ。さぁて、俺はそろそろ引っ越そうかね。
男5 ここいらは生きづれぇ。
男3 一緒に行くかい。
男5 ああ。
○女入り。男3、男5ハケ。
○女は男4の近くに寄り。座る。街灯が点滅する。
女 撮影ができない。
男4 ……。
女 撮影ができない。
男4 ……。
女 撮影ができない。
○明かりが消える。全員ハケ。街灯が点滅する。舞台は空っぽ。